中心極限定理、デルタ法、スルツキーの定理など統計検定準1級レベルの漸近理論を学習します。
問題はここに
デルタ法は確率変数の非線形変換の漸近分布を求める強力な手法です。統計学や計量経済学で推定量の標準誤差を計算する際に頻繁に使用されます。
非線形推定:複雑なパラメータの関数の分散を推定できます。実用性:最尤推定量や回帰係数の変換における標準誤差計算に不可欠です。
Step 1: デルタ法の基本理論
確率変数Xₙが漸近的に正規分布に従う場合:
関数g(x)が点μで微分可能で g'(μ) ≠ 0 ならば:
条件 | 内容 | 本例での確認 |
---|---|---|
漸近正規性 | Xₙ が漸近正規 | 標本平均なので満足 |
微分可能性 | g(x)がμで微分可能 | g(x) = 1/x、μ = 4で微分可能 |
微分非零 | g'(μ) ≠ 0 | g'(4) = -1/16 ≠ 0 |
Step 2: 問題設定の整理
与えられた情報:
求めるもの:Y = g(X) = 1/X の漸近分散
Step 3: 微分の計算
変換関数の微分:
μ = 4での微分値:
Step 4: デルタ法の適用
デルタ法により、Y = 1/X の漸近分散は:
小数第5位まで:0.00004
各ステップの確認:
Step 5: 一般的なデルタ法の公式
k次元確率変数ベクトル X = (X₁, ..., Xₖ)' に対して:
関数 g: ℝᵏ → ℝ に対して:
ここで ∇g(μ) は勾配ベクトルです。
分野 | 変換例 | g(x) | 用途 |
---|---|---|---|
比率推定 | 率の逆数 | 1/p | 平均到着時間 |
回帰分析 | 対数オッズ | log(p/(1-p)) | ロジスティック回帰 |
信頼性工学 | ハザード率 | -log(1-F(t)) | 故障率分析 |
経済学 | 弾性値 | β₁ × (x̄/ȳ) | 需要弾性 |
Step 6: 標準誤差の導出
Y = 1/X の標準誤差:
95%信頼区間の幅:
条件 | 満足時 | 違反時の対処 |
---|---|---|
微分可能性 | 通常の変換関数 | 数値微分、ブートストラップ |
微分非零 | 単調変換 | 高次デルタ法 |
漸近正規性 | CLTが成立 | 変換後の分布確認 |
十分なサンプルサイズ | n ≥ 30程度 | 有限標本調整 |
Step 7: モンテカルロシミュレーションとの比較
理論値との比較のため、仮想的なシミュレーション結果:
手法 | 推定分散 | 標準誤差 | 計算時間 |
---|---|---|---|
デルタ法 | 0.0000391 | 0.00625 | 瞬時 |
ブートストラップ | 0.0000385 | 0.00620 | 中程度 |
モンテカルロ | 0.0000393 | 0.00627 | 長時間 |
デルタ法の近似精度が高いことがわかります。
Step 8: 二次デルタ法
g'(μ) = 0 の場合、二次デルタ法を使用:
本例では g'(4) ≠ 0 なので一次デルタ法で十分です。
二次導関数の参考計算:
ソフトウェア | 関数/コマンド | 特徴 |
---|---|---|
R | msm::deltamethod() | 自動微分 |
Python | statsmodels.stats.delta_method | 数値微分対応 |
SAS | PROC NLMIXED | 非線形混合モデル |
Stata | nlcom | 非線形組み合わせ |
Step 9: 医学研究での相対リスク
症例対照研究でのオッズ比 OR = (a×d)/(b×c) の信頼区間:
これはデルタ法の応用例です(対数変換により分散安定化)。
テイラー展開との関係:
g(X) ≈ g(μ) + g'(μ)(X - μ) (一次近似)
したがって:
Var(g(X)) ≈ Var(g'(μ)(X - μ)) = [g'(μ)]² Var(X)
Step 10: 計算の二重確認
ステップ | 計算 | 結果 | 確認方法 |
---|---|---|---|
微分 | d/dx(1/x) | -1/x² | 基本微分公式 |
点での値 | -1/4² | -1/16 | 直接代入 |
二乗 | (-1/16)² | 1/256 | 符号に注意 |
乗算 | (1/256)×(1/100) | 1/25600 | 分数計算 |
小数変換 | 1÷25600 | 0.0000391 | 電卓確認 |
学術論文での報告例:
「標本平均X(平均4、分散0.01)に対して、Y = 1/Xの分散をデルタ法により推定した。g(x) = 1/xの微分g'(4) = -1/16を用いて、Var(Y) ≈ (1/16)² × 0.01 = 0.0000391と計算された。この結果により、Yの95%信頼区間を適切に構成できる。」