中心極限定理、デルタ法、スルツキーの定理など統計検定準1級レベルの漸近理論を学習します。
問題はここに
スルツキーの定理は漸近理論の基本定理の一つで、分布収束と確率収束を組み合わせた場合の収束性質を明らかにします。統計的推論において、未知パラメータを標本統計量で置き換える際の理論的根拠を提供する重要な結果です。
実用性:未知パラメータの標本統計量による置き換えを正当化
基本性:多くの統計的手法の理論的基盤となる基本定理
Step 1: 問題設定の確認
Step 2: 中心極限定理の適用
独立同分布確率変数について、中心極限定理により:
これは標準正規分布への分布収束を表します。
Step 3: 標本標準偏差の確率収束
大数の法則により、標本標準偏差は母標準偏差に確率収束:
したがって:
Xₙ →ᵖ c かつ連続関数 g について:
g(Xₙ) →ᵖ g(c)
ここでは g(x) = x/σ が連続なので、Sₙ →ᵖ σ ⟹ Sₙ/σ →ᵖ 1
Step 4: スルツキーの定理の適用
スルツキーの定理:
Xₙ →ᵈ X かつ Yₙ →ᵖ c(定数)ならば:
本問では:
スルツキーの定理により:
Step 5: 統計量の変形確認
統計量Tₙの別表現:
これは標本平均のt統計量と同じ形です。
Step 6: 確率P(|Tₙ| ≤ 1.96)の計算
漸近分布が N(0,1) なので:
ここで Z ~ N(0,1)。
標準正規分布の性質により:
小数第3位まで:0.950
標準正規分布の重要な値:
値 | Φ(値) | P(|Z|≤値) | 信頼度 |
---|---|---|---|
1.645 | 0.950 | 0.900 | 90% |
1.960 | 0.975 | 0.950 | 95% |
2.576 | 0.995 | 0.990 | 99% |
Step 7: 定理の一般的表現
スルツキーの定理の完全な形:
この結果から、連続関数 g に対して:
スルツキーの定理が適用できる条件:
Step 8: t検定への応用
母分散未知の場合の平均の検定:
検定統計量:
漸近的に N(0,1) に従うため、大標本では:
標本サイズ | 分布 | 臨界値(α=0.05) |
---|---|---|
小標本(n<30) | t(n-1) | 表から求める |
大標本(n≥30) | ≈ N(0,1) | 1.96 |
漸近的 | N(0,1) | 1.96 |
Step 9: 比率統計量
2つの統計量の比:
ここで:
スルツキーの定理により:
Step 10: 定理の証明概要
スルツキーの定理の証明は特性関数を用いて行われます:
特性関数 φₙ(t, s) = E[exp(itXₙ + isYₙ)] について:
これは (X, c) の特性関数と一致します。
Step 11: 具体的計算例
σ = 4, n = 100 の場合:
統計量 | 漸近分布 | P(|統計量|>1.96) |
---|---|---|
√n(X̄-μ)/σ | N(0,1) | 0.050 |
√n(X̄-μ)/S | ≈ N(0,1) | ≈ 0.050 |
正確なt統計量 | t(99) | ≈ 0.050 |
正規分布N(3,16)からの標本(n=100)での10,000回シミュレーション:
Step 12: 多変量への拡張
多変量版のスルツキーの定理:
この結果は:
スルツキーの定理は連続写像定理の特別な場合:
より一般的には、任意の連続関数に適用可能。
Step 13: 適用時の注意点
Step 14: 関連定理との比較
定理 | 条件 | 結論 | 応用 |
---|---|---|---|
スルツキー | 分布収束+確率収束 | 結合分布収束 | 統計量の変換 |
連続写像 | 分布収束+連続性 | 変換の分布収束 | 関数変換 |
デルタ法 | 分布収束+微分可能性 | 1次近似分布 | 非線形変換 |
これらの定理の包含関係:
ソフトウェア | 関数 | 特徴 |
---|---|---|
R | t.test() | 自動的にt/z選択 |
Python | scipy.stats.ttest_1samp | t検定実装 |
SAS | PROC TTEST | 詳細出力 |
Stata | ttest | 大標本近似対応 |
実際の研究報告例:
「独立同分布標本の標本平均に対するt統計量 Tₙ = √n(X̄ₙ - μ)/Sₙ について、スルツキーの定理を適用した。中心極限定理により √n(X̄ₙ - μ)/σ →ᵈ N(0,1) かつ大数の法則により Sₙ →ᵖ σ であるため、Tₙ は漸近的に標準正規分布に従う。したがって P(|Tₙ| > 1.96) の漸近確率は 0.050 となり、大標本では t分布と正規分布の区別が実用上無視できることが確認された。」