連続写像定理(Continuous Mapping Theorem)
連続写像定理は漸近理論の基本定理の一つで、確率変数列の収束性質を連続関数によって変換した場合にも保たれることを保証する重要な結果です。統計的推論における多くの応用で、複雑な統計量の漸近分布を導出する際の基本的な道具として使用されます。
連続写像定理の重要性
変換の保持:分布収束は連続変換により保たれます
応用範囲:平方変換、対数変換、逆数変換など多様な統計量に適用可能
Step 1: 問題設定の確認
- 母平均:μ = 1
- 母分散:σ² = 4, したがって σ = 2
- 標準化統計量:Zₙ = √n(X̄ₙ - μ)/σ
- 目的の統計量:Tₙ = (X̄ₙ - μ)²/(σ²/n)
Step 2: 中心極限定理の適用
独立同分布確率変数の標本平均について、中心極限定理により:
$Z_n = \frac{\sqrt{n}(\bar{X}_n - \mu)}{\sigma} \xrightarrow{d} N(0, 1)$
これは分布収束を表し、標準正規分布に収束することを示します。
Step 3: 統計量Tₙの変形
与えられた統計量Tₙを標準化統計量Zₙで表現:
$T_n = \frac{(\bar{X}_n - \mu)^2}{\sigma^2/n} = \frac{n(\bar{X}_n - \mu)^2}{\sigma^2}$
$= \left(\frac{\sqrt{n}(\bar{X}_n - \mu)}{\sigma}\right)^2 = Z_n^2$
したがって:Tₙ = Z²ₙ
Step 4: 連続写像定理の適用
連続写像定理の内容:
連続写像定理
確率変数列{Xₙ}がX に分布収束し、g が連続関数ならば:
Xₙ →ᵈ X ⟹ g(Xₙ) →ᵈ g(X)
ここで g(x) = x² は連続関数なので:
- Zₙ →ᵈ N(0, 1)
- g(x) = x² は連続
- したがって g(Zₙ) = Z²ₙ = Tₙ →ᵈ g(N(0,1)) = (N(0,1))²
Step 5: 標準正規分布の平方の分布
標準正規分布の平方の分布:
$Z \sim N(0, 1) \Rightarrow Z^2 \sim \chi^2(1)$
これは自由度1のカイ二乗分布です。
結論:Tₙ →ᵈ χ²(1)
χ²(1)分布の性質
- 確率密度関数:f(x) = (1/√(2πx))e^(-x/2), x > 0
- 期待値:E[X] = 1
- 分散:Var(X) = 2
- 積率母関数:M(t) = (1-2t)^(-1/2), t < 1/2
Step 6: 確率P(Tₙ ≤ 3.84)の計算
χ²(1)分布において:
$P(T_n \leq 3.84) \to P(\chi^2(1) \leq 3.84)$
標準的なχ²分布表から:
$P(\chi^2(1) \leq 3.84) = 0.950$
これは95%パーセンタイルに対応します。
小数第3位まで:0.950
計算の確認
χ²(1)分布の重要な分位点:
| 確率 | 分位点 | 意味 |
|---|
| 0.900 | 2.706 | 90%パーセンタイル |
| 0.950 | 3.841 | 95%パーセンタイル |
| 0.975 | 5.024 | 97.5%パーセンタイル |
| 0.990 | 6.635 | 99%パーセンタイル |
連続写像定理の詳細
Step 7: 定理の一般的表現
連続写像定理の数学的表現:
$X_n \xrightarrow{d} X, \quad g \in C(\mathbb{R}) \Rightarrow g(X_n) \xrightarrow{d} g(X)$
ここで C(ℝ) は実数上の連続関数の集合です。
連続性の確認
関数 g(x) = x² の連続性:
- 定義域:ℝ 全体
- 連続性:すべての点で連続
- 微分可能:g'(x) = 2x
- 単調性:x ≥ 0 で単調増加
統計的応用
Step 8: ワルド検定への応用
統計量Tₙは、実際には単一母平均の検定におけるワルド統計量です:
$H_0: \mu = \mu_0 \quad \text{vs} \quad H_1: \mu \neq \mu_0$
検定統計量:
$W = \frac{(\bar{X}_n - \mu_0)^2}{\sigma^2/n} \sim \chi^2(1)$
棄却域(α = 0.05):W > 3.84
検定の解釈
- 帰無仮説採択:W ≤ 3.84
- 帰無仮説棄却:W > 3.84
- 有意水準:α = 0.05
- 検出力:対立仮説下での棄却確率
他の連続写像の例
Step 9: 様々な変換の応用
| 変換 g(x) | Zₙ →ᵈ N(0,1) からの結果 | 応用例 |
|---|
| x² | χ²(1) | 分散の検定 |
| |x| | 半正規分布 | 絶対偏差 |
| exp(x) | 対数正規分布 | 乗法的効果 |
| Φ(x) | 一様分布U(0,1) | 確率変換 |
注意事項
連続写像定理の適用時の注意:
- 連続性:関数が不連続点を持つ場合は適用不可
- 収束点:極限分布の台で連続であれば十分
- 多変量:ベクトル値関数にも拡張可能
デルタ法との関係
Step 10: デルタ法の特別な場合
デルタ法(微分法)は連続写像定理の特別な場合です:
$\sqrt{n}(X_n - \mu) \xrightarrow{d} N(0, \sigma^2)$
微分可能な関数 g に対して:
$\sqrt{n}(g(X_n) - g(\mu)) \xrightarrow{d} N(0, [g'(\mu)]^2 \sigma^2)$
本問では g(x) = x²、μ = 0 での適用ですが、μ ≠ 0 なので直接適用は異なります。
数値計算の詳細
Step 11: χ²分布の累積分布関数
χ²(1)分布の累積分布関数:
$F(x) = P(\chi^2(1) \leq x) = 2\Phi(\sqrt{x}) - 1$
ここで Φ は標準正規分布の累積分布関数です。
x = 3.84 の場合:
$F(3.84) = 2\Phi(\sqrt{3.84}) - 1 = 2\Phi(1.96) - 1$
$= 2 \times 0.975 - 1 = 0.950$