ベイズ統計学

ベイズの定理、事前分布、事後分布、MCMC法、階層ベイズモデルなど統計検定準1級レベルのベイズ統計理論を学習します。

ベイズファクターの計算 レベル1

薬の効果を調べるために、2人の患者に新薬を投与したところ、2人とも回復した。回復確率をpとして、以下の2つの仮説を比較する:\\n- H₀: p = 0.5(薬に効果なし)\\n- H₁: p = 0.8(薬に効果あり)ベイズファクターBF₀₁を計算せよ。小数第3位まで求めよ。

解説
解答と解説を表示

ベイズファクターによる簡単な仮説比較

ベイズファクターは、2つの競合仮説間でのデータの支持度を定量化する重要な指標です。この問題では、薬の効果について簡単な例で学習します。

問題設定

  • データ:2人とも回復(成功回数x=2, 試行回数n=2)
  • 仮説H₀:p = 0.5(薬に効果なし)
  • 仮説H₁:p = 0.8(薬に効果あり)

Step 1: H₀の下での尤度

H₀では p = 0.5 なので:

$$P(\\text{データ}|H_0) = (0.5)^2 = 0.25$$

Step 2: H₁の下での尤度

H₁では p = 0.8 なので:

$$P(\\text{データ}|H_1) = (0.8)^2 = 0.64$$

Step 3: ベイズファクターの計算

$$BF_{01} = \\frac{P(\\text{データ}|H_0)}{P(\\text{データ}|H_1)} = \\frac{0.25}{0.64} = 0.391$$

Step 4: 結果の解釈

ベイズファクターの解釈

  • BF₀₁ = 0.391 < 1:データはH₁を支持
  • BF₁₀ = 1/0.391 ≈ 2.56:H₁への弱い証拠
  • 判定:薬に効果があるという仮説が支持される

判定基準(Kass & Raftery)

  • BF > 10:強い証拠
  • 3 < BF < 10:中程度の証拠
  • 1 < BF < 3:弱い証拠
  • BF ≈ 1:証拠なし

今回のBF₁₀ ≈ 2.56は弱い証拠の範囲に入ります。

ベイズファクターの実用的意味

Step 5: 比較の詳細分析

仮説事前の妥当性データとの整合性総合評価
H₀ (p=0.5)中立的仮説25%の確率で起こるやや低い支持
H₁ (p=0.8)効果的な薬仮説64%の確率で起こるより高い支持

Step 6: 計算の検証

別の観点から確認してみましょう:

$$\\text{尤度比} = \\frac{0.64}{0.25} = 2.56$$

これは、観測されたデータが H₁ の下で H₀ の下よりも 2.56倍起こりやすいことを示しています。

より大きなサンプルでの考察

もし10人中8人が回復した場合:

  • H₀:$P(\\text{データ}|H_0) = \\binom{10}{8}(0.5)^{10} = 45 \\times 0.00098 ≈ 0.044$
  • H₁:$P(\\text{データ}|H_1) = \\binom{10}{8}(0.8)^8(0.2)^2 = 45 \\times 0.168 \\times 0.04 ≈ 0.302$
  • BF₀₁:$0.044/0.302 ≈ 0.146$
  • BF₁₀:約6.9(中程度の証拠)

サンプルサイズが大きくなると、証拠がより明確になります。

実際の臨床応用での考慮事項

Step 7: 臨床的意義

  • 統計的証拠:BF₁₀ = 2.56は弱い証拠
  • 臨床的判断:追加の患者での検証が必要
  • リスク評価:副作用や費用も考慮
  • 意思決定:統計だけでなく総合的判断が重要

ベイズファクター vs p値

項目ベイズファクターp値
解釈仮説間の証拠の重み帰無仮説との整合性
基準連続的な証拠の強さ0.05という任意的基準
仮説複数仮説の直接比較帰無仮説のみ検定
解釈の直感性「何倍支持されるか」「稀な事象の確率」
問題 1/10
カテゴリ一覧に戻る