ベイズ統計学

ベイズの定理、事前分布、事後分布、MCMC法、階層ベイズモデルなど統計検定準1級レベルのベイズ統計理論を学習します。

MCMCサンプリングの収束診断 レベル1

メトロポリス・ヘイスティングス法で正規分布$N(μ,1)$の$μ$からサンプリングを行う。現在の値$μ=2.5$、候補値$μ*=3.2$、目標分布$π(μ)∝exp(-μ²/8)$のとき、受容確率αはいくらか。小数第3位まで求めよ。

解説
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メトロポリス・ヘイスティングス法の受容確率計算

MCMCサンプリングの中核となるメトロポリス・ヘイスティングス(MH)アルゴリズムにおける受容確率の具体的計算を行います。

問題設定の整理

  • 現在の値:$\\mu = 2.5$
  • 候補値:$\\mu^* = 3.2$
  • 目標分布:$\\pi(\\mu) \\propto \\exp(-\\mu^2/8)$
  • 提案分布:正規分布$N(\\mu, 1)$(対称)

Step 1: メトロポリス・ヘイスティングス受容確率

MHアルゴリズムの受容確率の一般形:

$$\\alpha = \\min\\left(1, \\frac{\\pi(\\mu^*) q(\\mu|\\mu^*)}{\\pi(\\mu) q(\\mu^*|\\mu)}\\right)$$

ここで:

  • $\\pi(\\cdot)$:目標分布の密度
  • $q(\\cdot|\\cdot)$:提案分布の密度

Step 2: 対称提案分布の簡素化

提案分布が対称($q(\\mu^*|\\mu) = q(\\mu|\\mu^*)$)の場合:

$$\\alpha = \\min\\left(1, \\frac{\\pi(\\mu^*)}{\\pi(\\mu)}\\right)$$

これがメトロポリスアルゴリズムの特別な場合です。

Step 3: 目標分布の密度計算

目標分布:$\\pi(\\mu) \\propto \\exp(-\\mu^2/8)$

現在の値での密度:

$$\\pi(2.5) \\propto \\exp\\left(-\\frac{(2.5)^2}{8}\\right) = \\exp\\left(-\\frac{6.25}{8}\\right) = \\exp(-0.78125)$$
$$\\pi(2.5) \\propto \\exp(-0.78125) ≈ 0.458$$

候補値での密度:

$$\\pi(3.2) \\propto \\exp\\left(-\\frac{(3.2)^2}{8}\\right) = \\exp\\left(-\\frac{10.24}{8}\\right) = \\exp(-1.28)$$
$$\\pi(3.2) \\propto \\exp(-1.28) ≈ 0.278$$

Step 4: 密度比の計算

$$\\frac{\\pi(\\mu^*)}{\\pi(\\mu)} = \\frac{\\pi(3.2)}{\\pi(2.5)} = \\frac{\\exp(-1.28)}{\\exp(-0.78125)}$$
$$= \\exp(-1.28 + 0.78125) = \\exp(-0.49875)$$
$$≈ 0.607$$

Step 5: 受容確率の決定

密度比が1未満なので:

$$\\alpha = \\min(1, 0.607) = 0.607$$

結果の解釈

  • 受容確率60.7%:候補値が比較的高い確率で受容される
  • 密度の減少:候補値の方が密度が低いため、必ず受容されるわけではない
  • 探索の継続:低密度領域への移動も可能にしている

Step 6: MCMCアルゴリズムの流れ

  1. 候補生成:$\\mu^* \\sim N(\\mu_t, 1)$
  2. 受容確率計算:$\\alpha = \\min(1, \\pi(\\mu^*)/\\pi(\\mu_t))$
  3. 受容判定:$u \\sim U(0,1)$で$u < \\alpha$なら受容
  4. 状態更新:受容なら$\\mu_{t+1} = \\mu^*$、棄却なら$\\mu_{t+1} = \\mu_t$

収束診断の重要性

MCMCサンプリングでは以下の診断が重要:

  • トレースプロット:チェーンの時系列的変化
  • $\\hat{R}$統計量:複数チェーン間の比較
  • 有効サンプルサイズ:自己相関の評価
  • 受容率:23-50%が理想的

Step 7: 実装上の考慮事項

提案分布の調整:

  • 分散が小さすぎる:受容率高いが探索効率低い
  • 分散が大きすぎる:受容率低く非効率
  • 適応的調整:ウォームアップ期間での自動調整

目標受容率:

  • 1次元:約44%
  • 高次元:約23%
  • 調整方法:提案分散のスケーリング
問題 1/10
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