効果サイズ(Cohen's f)による実際的有意性の評価
統計的有意性(p値)だけでなく、実際的有意性を評価するために効果サイズを計算します。Cohen's fは分散分析における効果サイズの標準的な指標です。
効果サイズの重要性
統計的有意性≠実際的有意性です。大きなサンプルサイズでは小さな差でも有意になるため、効果の実際的な大きさを評価することが重要です。
Step 1: 問題設定の確認
- 群間平方和:SSB = 240
- 群内平方和:SSW = 360
- 各群のサンプルサイズ:n = 10
- 群数:k = 3
- 総サンプルサイズ:N = 3 × 10 = 30
Step 2: Cohen's f の公式
Cohen's f は以下の公式で計算されます:
$$f = \sqrt{\frac{\eta^2}{1 - \eta^2}}$$
ここで、$\eta^2$(イータ二乗)は効果サイズの一種で:
$$\eta^2 = \frac{SS_{between}}{SS_{total}} = \frac{SSB}{SSB + SSW}$$
Step 3: イータ二乗(η²)の計算
$$\eta^2 = \frac{SSB}{SSB + SSW} = \frac{240}{240 + 360} = \frac{240}{600} = 0.4$$
これは、全変動の40%が群間の差によって説明されることを意味します。
Step 4: Cohen's f の計算
$$f = \sqrt{\frac{\eta^2}{1 - \eta^2}} = \sqrt{\frac{0.4}{1 - 0.4}} = \sqrt{\frac{0.4}{0.6}}$$
$$f = \sqrt{0.667} = 0.816$$
小数第3位まで:0.816
別の計算方法(確認)
Cohen's f は平均平方を使って直接計算することもできます:
$$f = \sqrt{\frac{MS_{between} - MS_{within}}{MS_{within}}}$$
平均平方の計算:
- $MS_{between} = \frac{SSB}{k-1} = \frac{240}{3-1} = \frac{240}{2} = 120$
- $MS_{within} = \frac{SSW}{N-k} = \frac{360}{30-3} = \frac{360}{27} = 13.333$
$$f = \sqrt{\frac{120 - 13.333}{13.333}} = \sqrt{\frac{106.667}{13.333}} = \sqrt{8.0} = 2.828$$
この方法では異なる値になります。正しい公式は最初の方法です。
Step 5: Cohen's f の解釈基準
効果サイズ | Cohen's f | 解釈 | η² |
---|
小 | 0.10 | 小さい効果 | 0.01 |
中 | 0.25 | 中程度の効果 | 0.06 |
大 | 0.40 | 大きい効果 | 0.14 |
計算結果 f = 0.816 は非常に大きな効果サイズを示しています。
効果サイズの実際的解釈
- η² = 0.4:全変動の40%が処理効果で説明される
- f = 0.816:Cohenの基準では「非常に大きい」効果
- 実用的意味:処理間に明確で実用的な差がある
- 研究の価値:統計的にも実際的にも意味のある結果
Step 6: 他の効果サイズ指標との関係
偏イータ二乗(partial η²):
$$\text{partial } \eta^2 = \frac{SSB}{SSB + SSW} = 0.4$$
この場合、他の要因がないため η² = partial η² になります。
オメガ二乗(ω²):
$$\omega^2 = \frac{SSB - (k-1) \times MS_{within}}{SSB + SSW + MS_{within}}$$
$$\omega^2 = \frac{240 - 2 \times 13.333}{240 + 360 + 13.333} = \frac{213.334}{613.333} = 0.348$$
ω²はより保守的な効果サイズの推定値です。
実験計画における効果サイズの活用
サンプルサイズ設計
事前に期待される効果サイズに基づいて、適切なサンプルサイズを計算できます:
- 小さい効果(f=0.10):大きなサンプルサイズが必要
- 大きい効果(f=0.40):小さなサンプルサイズでも検出可能
- 検出力分析:α、効果サイズ、検出力から必要なnを算出
研究分野別の効果サイズの典型値
分野 | 典型的な効果サイズ | Cohen's f |
---|
教育研究 | 小〜中 | 0.15 - 0.30 |
心理学 | 小〜中 | 0.10 - 0.35 |
医学研究 | 小〜大 | 0.20 - 0.50 |
農業実験 | 中〜大 | 0.25 - 0.60 |
効果サイズ報告の重要性
- APA形式:F統計量とともに効果サイズを報告
- メタ分析:複数研究の統合に効果サイズが必須
- 実用的判断:介入の価値を評価する客観的基準
- 再現可能性:他の研究との比較可能性を向上
実際の報告例
「一元配置分散分析の結果、処理間に有意差が認められた (F(2,27) = 9.0, p < 0.001, f = 0.816)。この大きな効果サイズは、処理が実際的に意味のある影響を与えていることを示している。」