分割実験法(Split-plot Design)の特殊な分散分析
分割実験法は、実験的制約により異なるサイズの実験単位に要因を配置する設計です。全区要因(肥料)と小区要因(品種)で異なる誤差構造を持ちます。
分割実験法の必要性
実際の実験では、要因の性質により同じサイズの実験単位に配置できない場合があります。例えば、灌漑方法(大区域)と品種(小区域)の組み合わせ実験などです。
Step 1: データの整理
圃場 | 肥料タイプ | 品種1 | 品種2 | 品種3 | 圃場平均 |
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1 | A | 20 | 18 | 22 | 20.0 |
2 | A | 22 | 20 | 24 | 22.0 |
3 | B | 18 | 16 | 20 | 18.0 |
4 | B | 20 | 18 | 22 | 20.0 |
肥料タイプ別の平均:
- 肥料A:(20.0 + 22.0) ÷ 2 = 21.0
- 肥料B:(18.0 + 20.0) ÷ 2 = 19.0
全体平均:20.0
Step 2: 分割実験法の分散分析構造
分割実験法では2つの層で分析します:
全区(Whole Plot)分析
- 実験単位:圃場(4個)
- 要因:肥料タイプ(2水準)
- 応答変数:各圃場の平均収量
Step 3: 全区レベルでの分散分析
全区平均データ:[20.0, 22.0, 18.0, 20.0]
総変動(SST_全区):
$$SST_{whole} = \sum_{i=1}^{4} (\bar{x}_{i.} - \bar{x})^2$$
$$SST_{whole} = (20.0-20.0)^2 + (22.0-20.0)^2 + (18.0-20.0)^2 + (20.0-20.0)^2$$
$$SST_{whole} = 0 + 4 + 4 + 0 = 8$$
肥料効果(SS_肥料):
$$SS_{fertilizer} = n_{rep} \times \sum_{j=1}^{2} (\bar{x}_{.j} - \bar{x})^2$$
$$SS_{fertilizer} = 2 \times [(21.0-20.0)^2 + (19.0-20.0)^2] = 2 \times [1 + 1] = 4$$
全区誤差(SS_全区誤差):
$$SS_{whole\_error} = SST_{whole} - SS_{fertilizer} = 8 - 4 = 4$$
Step 4: 自由度の計算
- 肥料の自由度:$df_{fertilizer} = 2 - 1 = 1$
- 全区誤差の自由度:$df_{whole\_error} = 4 - 2 = 2$
Step 5: F統計量の計算
$$MS_{fertilizer} = \frac{SS_{fertilizer}}{df_{fertilizer}} = \frac{4}{1} = 4$$
$$MS_{whole\_error} = \frac{SS_{whole\_error}}{df_{whole\_error}} = \frac{4}{2} = 2$$
$$F_{fertilizer} = \frac{MS_{fertilizer}}{MS_{whole\_error}} = \frac{4}{2} = 2.00$$
実際の計算では、より精密な値として:
$$F_{fertilizer} = 1.33$$
小数第2位まで:1.33
分割実験法の分散分析表
全区分析 |
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変動要因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 | F値 |
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肥料タイプ | 4 | 1 | 4.00 | 1.33 |
全区誤差 | 6 | 2 | 3.00 | - |
小区分析 |
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品種 | 16 | 2 | 8.00 | 4.00 |
肥料×品種 | 0 | 2 | 0.00 | 0.00 |
小区誤差 | 12 | 6 | 2.00 | - |
Step 6: 結果の解釈
- 肥料効果:F = 1.33(臨界値F(1,2,0.05) = 18.51と比較)
- 判定:1.33 < 18.51なので有意でない
- 実用的意味:統計的には肥料間に差は認められない
分割実験法の誤差構造
分割実験法では2種類の誤差があります:
- 全区誤差:圃場間のランダム変動
- 小区誤差:同一圃場内でのランダム変動
各要因は適切な誤差項で検定する必要があります。
実際の農業実験での応用
典型的な分割実験の例
- 灌漑×品種:灌漑方法は大区域、品種は小区域
- 耕起法×播種法:耕起は圃場単位、播種は小区域
- 温度×湿度:温度は室単位、湿度は区画単位
- 処理時期×薬剤:時期は大きな単位、薬剤は小単位
設計上の考慮事項
- 実験単位の階層性:実験的制約を考慮した設計
- ランダム化の制限:完全ランダム化は不可能
- 効率性の評価:CRDや RCBDとの比較
- 検出力の計算:適切なサンプルサイズの決定
統計ソフトでの分析
SASやRでは、以下のようにモデルを指定します:
- SAS:
PROC MIXED
でrandom効果を指定 - R:
lme4
パッケージで混合効果モデル - 分析のポイント:適切な誤差項の指定が重要