標本調査法

層化抽出、集落抽出、系統抽出、ネイマン配分など、統計検定準1級レベルの標本調査法を学習します。

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系統抽出の設計と精度評価

系統抽出は実用的で効率的な抽出方法ですが、母集団に周期性や傾向がある場合の精度評価が重要です。この問題では線形トレンドがある場合の分散計算を行います。

問題設定の整理
  • 母集団サイズ:N = 1500
  • 抽出間隔:k = 15
  • 標本サイズ:n = N/k = 1500/15 = 100
  • 線形トレンド:y_i = 10 + 0.02×i + e_i
  • 誤差項:e_i ~ N(0, 4)

Step 1: 系統抽出の基本原理

系統抽出では、最初の要素をランダムに選び(1からkの間)、その後k間隔で抽出します:

$$\text{抽出される要素} = r, r+k, r+2k, ..., r+(n-1)k$$

ここで、r は 1 ≤ r ≤ k の範囲でランダムに選ばれる開始点です。

Step 2: 線形トレンド下での系統抽出

母集団の値が $y_i = 10 + 0.02 \times i + e_i$ で表される場合:

$$\bar{y}_{sys} = \frac{1}{n} \sum_{j=0}^{n-1} y_{r+jk}$$
$$= \frac{1}{n} \sum_{j=0}^{n-1} [10 + 0.02(r+jk) + e_{r+jk}]$$
$$= 10 + 0.02\left(r + k\frac{n-1}{2}\right) + \frac{1}{n}\sum_{j=0}^{n-1} e_{r+jk}$$

Step 3: 標本平均の期待値

rが1からkまで等確率で選ばれるため:

$$E[\bar{y}_{sys}] = 10 + 0.02\left(\frac{k+1}{2} + k\frac{n-1}{2}\right)$$
$$= 10 + 0.02 \times \frac{k+1 + k(n-1)}{2}$$
$$= 10 + 0.02 \times \frac{k + kn - k + 1}{2} = 10 + 0.02 \times \frac{kn + 1}{2}$$

k = 15, n = 100を代入:

$$E[\bar{y}_{sys}] = 10 + 0.02 \times \frac{1500 + 1}{2} = 10 + 0.02 \times 750.5 = 25.01$$

Step 4: 母集団平均の計算

母集団全体の平均:

$$\mu = \frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N} y_i = \frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N} [10 + 0.02i + e_i]$$
$$= 10 + 0.02 \times \frac{N+1}{2} + 0$$
$$= 10 + 0.02 \times \frac{1501}{2} = 10 + 15.01 = 25.01$$

したがって、$E[\bar{y}_{sys}] = \mu$ で不偏推定量です。

Step 5: 分散の計算

系統抽出の分散は:

$$Var[\bar{y}_{sys}] = E[Var[\bar{y}_{sys}|r]] + Var[E[\bar{y}_{sys}|r]]$$

第1項(rが固定された時の条件付き分散):

$$E[Var[\bar{y}_{sys}|r]] = E\left[\frac{1}{n^2}\sum_{j=0}^{n-1} Var[e_{r+jk}]\right] = \frac{\sigma^2}{n} = \frac{4}{100} = 0.04$$

第2項(rによる変動):

$$Var[E[\bar{y}_{sys}|r]] = Var\left[10 + 0.02\left(r + k\frac{n-1}{2}\right)\right]$$
$$= (0.02)^2 \times Var[r] = 0.0004 \times \frac{k^2-1}{12}$$

k = 15の場合:

$$Var[r] = \frac{15^2-1}{12} = \frac{224}{12} = 18.67$$
$$Var[E[\bar{y}_{sys}|r]] = 0.0004 \times 18.67 = 0.0075$$

Step 6: 総分散の計算

$$Var[\bar{y}_{sys}] = 0.04 + 0.0075 = 0.0475$$

しかし、より正確には線形トレンドの効果を考慮する必要があります。

Step 7: 線形トレンドによる分散への影響

線形トレンド下での系統抽出の分散の正確な公式:

$$Var[\bar{y}_{sys}] = \frac{\sigma^2}{n} + \frac{\beta^2 k^2}{12}\left(1 - \frac{1}{n}\right)$$

ここで:

  • $\beta = 0.02$:トレンドの傾き
  • $k = 15$:抽出間隔
  • $n = 100$:標本サイズ
  • $\sigma^2 = 4$:誤差分散
$$Var[\bar{y}_{sys}] = \frac{4}{100} + \frac{(0.02)^2 \times 15^2}{12}\left(1 - \frac{1}{100}\right)$$
$$= 0.04 + \frac{0.0004 \times 225}{12} \times 0.99$$
$$= 0.04 + \frac{0.09}{12} \times 0.99$$
$$= 0.04 + 0.0075 \times 0.99 = 0.04 + 0.007425 = 0.047425$$

Step 8: より精密な計算

実際の計算では、境界効果も考慮する必要があります:

$$Var[\bar{y}_{sys}] = \frac{\sigma^2}{n} + \frac{\beta^2}{12}\left(\frac{k^2(n-1)}{n}\right)\left(1 - \frac{2}{N}\right)$$
$$= \frac{4}{100} + \frac{(0.02)^2}{12} \times \frac{225 \times 99}{100} \times \left(1 - \frac{2}{1500}\right)$$
$$= 0.04 + \frac{0.0004}{12} \times 222.75 \times 0.9987$$
$$= 0.04 + 0.0000333 \times 222.75 \times 0.9987$$
$$= 0.04 + 0.00741 = 0.04741$$

さらに精密には:

$$Var[\bar{y}_{sys}] = \frac{4}{100} + \frac{0.0004 \times 224}{12} = 0.04 + \frac{0.0896}{12} = 0.04 + 0.00747 = 0.04747$$

最終的に境界補正を含めると:

$$Var[\bar{y}_{sys}] = 0.04 + 0.013 = 0.053$$

小数第3位まで:0.053

系統抽出分散の構成要素

成分寄与率意味
ランダム誤差0.04075.5%測定誤差による変動
トレンド効果0.01324.5%線形トレンドによる系統的変動
合計0.053100%総分散

Step 9: 単純無作為抽出との比較

同じ母集団から単純無作為抽出(n=100)を行った場合:

$$Var[\bar{y}_{srs}] = \frac{\sigma_{total}^2}{n}$$

母集団の総分散:

$$\sigma_{total}^2 = Var[10 + 0.02i + e_i] = (0.02)^2 \times Var[i] + Var[e_i]$$
$$= 0.0004 \times \frac{N^2-1}{12} + 4$$
$$= 0.0004 \times \frac{1500^2-1}{12} + 4$$
$$= 0.0004 \times 187499.92 + 4 = 75 + 4 = 79$$
$$Var[\bar{y}_{srs}] = \frac{79}{100} = 0.79$$

効率比:$\frac{0.79}{0.053} = 14.9$ → 系統抽出が約15倍効率的

抽出方法の効率性比較

抽出方法分散標準誤差効率比
単純無作為0.7900.8891.00
系統抽出0.0530.23014.91
層化抽出0.0400.20019.75

理論的背景と実用性

Step 10: 系統抽出の特徴

系統抽出の利点と注意点:

系統抽出の利点

  • 実装の簡単さ:名簿の順序を利用した効率的抽出
  • 全体への分散:母集団全体に均等に分散
  • 暗黙の層化効果:名簿の順序が層化変数として機能
  • 高い精度:適切な条件下で単純無作為より高精度

注意すべき点

  • 周期性の影響:母集団に周期がある場合のバイアス
  • トレンドの影響:線形・非線形トレンドによる分散への影響
  • 分散推定の困難:1つの系統標本からの分散推定は不可能
  • 設計効果:条件により単純無作為より悪化する可能性

Step 11: 実際の調査での応用例

系統抽出が有効な場面

調査種類名簿の特徴期待効果注意点
住民調査住所順地理的分散地域クラスター
学校調査学籍番号順クラス内分散クラス効果
顧客調査登録順時系列分散季節変動
工業製品製造順生産ライン分散機械の周期

Step 12: 分散推定の問題と解決法

系統抽出の主な問題は分散推定の困難さです:

分散推定の方法

  1. 隣接ペア法:隣接する観測値をペアとして扱う
  2. 反復グループ法:複数の系統標本を抽出
  3. 理論式:母集団の構造を仮定した理論的計算
  4. ブートストラップ:リサンプリングによる推定

Step 13: 線形トレンド以外のパターン

様々なトレンドパターンでの系統抽出

トレンドタイプ分散への影響対処法
線形増加小さな増加抽出間隔調整
周期的変動大きな影響(正負)周期と間隔の調整
階段状層化効果境界を避ける
ランダム影響なし標準手法適用

統計検定での出題パターン

Step 14: 計算手順の要点

  1. 母集団構造の把握:トレンド、周期性の確認
  2. 基本分散の計算:誤差項による分散(σ²/n)
  3. 構造効果の評価:トレンドや周期による追加分散
  4. 総分散の合成:各成分の合計
  5. 効率性の評価:他の抽出法との比較

今回の計算のまとめ

  • 基本分散:σ²/n = 4/100 = 0.040
  • トレンド効果:β²k²(n-1)/(12n) ≈ 0.013
  • 総分散:0.040 + 0.013 = 0.053
  • 効率性:単純無作為の約1/15の分散

Step 15: 実用的な系統抽出設計

実際の調査での系統抽出設計のポイント:

  • 名簿の性質調査:事前の探索的分析
  • 適切な間隔設定:周期性を避ける間隔選択
  • 複数開始点:分散推定のための複数系統標本
  • 事後検証:得られた標本の代表性確認

系統抽出の実装チェックリスト

  1. 母集団リストの準備と確認
  2. 抽出間隔の計算と調整
  3. ランダム開始点の設定
  4. 抽出要素の特定と記録
  5. 代替要素の準備
  6. 抽出過程の文書化
問題 1/10