標本調査法

層化抽出、集落抽出、系統抽出、ネイマン配分など、統計検定準1級レベルの標本調査法を学習します。

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解説
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クラスター抽出における設計効果の計算

この問題では、クラスター抽出が単純無作為抽出と比較してどの程度効率が低下するかを測る設計効果を学習します。クラスター内相関が推定精度に与える影響を定量的に理解する重要な概念です。

問題設定の整理
  • 総クラスター数:M = 500
  • 各クラスターのサイズ:N = 20要素
  • 母集団総数:500 × 20 = 10000
  • 抽出クラスター数:m = 50
  • 各クラスターからの調査:全数(n = 20)
  • 総標本サイズ:50 × 20 = 1000
  • クラスター内相関係数:ρ = 0.15

Step 1: 設計効果の定義

設計効果(design effect, deff)は:

$$\text{deff} = \frac{V(\hat{\bar{Y}}_{cluster})}{V(\hat{\bar{Y}}_{srs})}$$

ここで:

  • $V(\hat{\bar{Y}}_{cluster})$:クラスター抽出による推定量の分散
  • $V(\hat{\bar{Y}}_{srs})$:同じ標本サイズの単純無作為抽出による推定量の分散

Step 2: クラスター抽出の分散

クラスター抽出(各クラスター全数調査)の場合:

$$V(\hat{\bar{Y}}_{cluster}) = \frac{1-f_1}{m} \cdot \frac{S_b^2}{N}$$

ここで:

  • $f_1 = \frac{m}{M} = \frac{50}{500} = 0.1$:第1段抽出率
  • $S_b^2$:クラスター平均間の分散
  • $N = 20$:クラスターサイズ

Step 3: 単純無作為抽出の分散

同じ標本サイズ(n=1000)の単純無作為抽出の場合:

$$V(\hat{\bar{Y}}_{srs}) = \frac{1-f}{n} \cdot S^2$$

ここで:

  • $f = \frac{n}{MN} = \frac{1000}{10000} = 0.1$:抽出率
  • $S^2$:母集団全体の分散

クラスター内相関係数の役割

クラスター内相関係数ρは以下の関係で定義:

$$\rho = \frac{S_b^2 - S_w^2/N}{S_b^2 + (N-1)S_w^2/N}$$

ここで:

  • $S_b^2$:クラスター間分散
  • $S_w^2$:クラスター内分散

Step 4: 分散成分の関係

母集団全体の分散は:

$$S^2 = S_b^2 + \frac{N-1}{N} S_w^2$$

クラスター内相関係数から:

$$S_b^2 = \frac{\rho S^2}{1 + (N-1)\rho}$$

Step 5: 設計効果の一般公式

クラスター抽出(全数調査)の設計効果は:

$$\text{deff} = 1 + (N-1)\rho$$

この公式は、有限母集団修正が同じ場合に成り立ちます。

Step 6: 数値計算

与えられた値を代入:

$$\text{deff} = 1 + (N-1)\rho = 1 + (20-1) \times 0.15$$
$$= 1 + 19 \times 0.15 = 1 + 2.85 = 3.85$$

したがって、設計効果は3.85です。

設計効果の解釈

設計効果値意味効率性
1.0単純無作為抽出と同等100%
2.0分散が2倍50%
3.85分散が3.85倍26%
5.0分散が5倍20%

今回の場合、クラスター抽出の効率は単純無作為抽出の約26%です。

設計効果の要因分析

Step 7: クラスターサイズの影響

異なるクラスターサイズでの設計効果:

クラスターサイズ(N)設計効果効率性
51 + 4×0.15 = 1.6063%
101 + 9×0.15 = 2.3543%
201 + 19×0.15 = 3.8526%
501 + 49×0.15 = 8.3512%

クラスターサイズが大きいほど効率が悪化します。

Step 8: 相関係数の影響

クラスターサイズN=20での相関係数別設計効果:

相関係数(ρ)設計効果効率性
0.001.00100%
0.051.9551%
0.102.9034%
0.153.8526%
0.204.8021%

実効標本サイズ

設計効果を考慮した実効標本サイズは:

$$n_{eff} = \frac{n}{\text{deff}} = \frac{1000}{3.85} \approx 260$$

1000人を調査しても、実質的には260人の単純無作為抽出と同等の精度です。

クラスター抽出の最適化

Step 9: 最適クラスター数と抽出数

固定予算の下での最適配分(費用を考慮):

$$\frac{m_{opt}}{M} = \sqrt{\frac{C_2 S_w^2}{C_1 S_b^2 N}}$$

ここで:

  • $C_1$:クラスター抽出の単位費用
  • $C_2$:個体調査の単位費用

Step 10: 部分抽出による改善

各クラスターから部分抽出する場合の設計効果:

$$\text{deff} = 1 + \rho(n-1) + \frac{(1-\rho)(N-n)}{nN}$$

ここで、nは各クラスターからの抽出数です。

例:各クラスターから10人抽出の場合:

$$\text{deff} = 1 + 0.15 \times 9 + \frac{0.85 \times 10}{10 \times 20} = 1 + 1.35 + 0.043 = 2.39$$

実際の調査での応用

調査種類典型的ρ値対策
学校調査0.05-0.15多数校、少数生徒
地域調査0.10-0.25地理的分散
企業調査0.15-0.30業種別層化
家族調査0.20-0.40個人ベース抽出

設計効果の推定と対策

Step 11: 設計効果の事前推定

調査計画段階での推定方法:

  • 過去の調査:類似調査での経験値
  • 予備調査:小規模調査での確認
  • 文献値:学術研究での報告値
  • 専門知識:現象の性質からの推測

Step 12: 設計効果を抑制する方法

  1. クラスターサイズの縮小:小さなクラスターを多数抽出
  2. 部分抽出の導入:各クラスターから一部のみ抽出
  3. 層化の併用:クラスター抽出前の層化
  4. 重み調整:事後的な分散削減手法

分散推定の実際

クラスター抽出での分散推定:

$$\hat{V}(\hat{\bar{Y}}) = \frac{1-f_1}{m(m-1)} \sum_{i=1}^m (\bar{y}_i - \hat{\bar{Y}})^2$$

ここで、$\bar{y}_i$は第iクラスターの平均です。

高度なクラスター抽出技法

Step 13: 確率比例抽出

クラスターサイズに比例した確率での抽出:

$$P_i = \frac{N_i}{\sum_{j=1}^M N_j}$$

この方法により、設計効果の改善が期待できます。

Step 14: バランス抽出

補助変数でのバランスを保持したクラスター抽出:

  • 地理的バランス:地域分布の保持
  • 属性バランス:重要変数の分布保持
  • 時間的バランス:継続調査での安定性

費用効率性の評価

実際の調査では設計効果だけでなく費用も考慮:

$$\text{効率性} = \frac{1}{\text{deff} \times \text{相対費用}}$$

クラスター抽出は設計効果が大きくても、費用削減により総合的に有利な場合があります。

品質管理と検証

Step 15: 事後的な設計効果の確認

調査完了後の検証:

  1. クラスター内相関の推定
  2. 実際の設計効果の計算
  3. 計画値との比較
  4. 次回調査への反映

結論:設計効果の実用性

今回の設計効果3.85は:

  • 効率性:26%(やや低い)
  • 実用性:費用削減効果次第
  • 改善案:クラスターサイズ縮小または部分抽出

今回の計算結果の総括

  • 設計効果:3.85
  • 効率性:26%(1/3.85)
  • 実効標本サイズ:約260人相当
  • 改善余地:クラスター設計の見直しで向上可能
問題 1/10