標本調査における基本概念の理解
この問題では、標本調査法の重要な概念について正確な理解を確認します。統計検定準1級レベルの基本知識です。
各選択肢の検討
選択肢 | 内容 | 正誤 |
---|
A | 有限母集団修正の適用条件 | 誤り |
B | 層化抽出の効果的条件 | 誤り |
C | 系統抽出の効率性 | 誤り |
D | ネイマン配分の原理 | 正解 |
選択肢Aの検討:有限母集団修正
選択肢A:「有限母集団修正は、抽出率が5%未満の場合に必ず適用する」
誤りです。正しくは:
- 抽出率 < 5%:修正は通常不要(影響が軽微)
- 抽出率 ≥ 5%:修正を考慮すべき
- 抽出率 ≥ 10%:修正が必要
有限母集団修正係数:
$$\text{FPC} = \sqrt{\frac{N-n}{N-1}}$$
抽出率が低い場合、この係数は1に近くなり、修正の効果は小さくなります。
有限母集団修正の判断基準
抽出率 | 修正の必要性 | 理由 |
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< 5% | 不要 | 効果が軽微 |
5-10% | 推奨 | ある程度の効果 |
≥ 10% | 必要 | 明確な効果 |
選択肢Bの検討:層化抽出の効果
選択肢B:「層化抽出では、層内の分散が大きく、層間の分散が小さいほど効果的である」
誤りです。正しくは逆で:
- 層内分散は小さく:層内の要素が同質
- 層間分散は大きく:層間で明確な差
層化抽出の効果は以下の分散分解で理解できます:
$$\sigma^2 = \sigma_{within}^2 + \sigma_{between}^2$$
効果的な層化:
- $\sigma_{within}^2$ が小さい → 各層内で推定精度向上
- $\sigma_{between}^2$ が大きい → 層化による分散削減効果大
理想的な層化の条件
- 層内同質性:Within-group homogeneity
- 層間異質性:Between-group heterogeneity
- 適切な層数:管理可能な範囲
- 十分な層サイズ:統計的推定に必要な最小サイズ
選択肢Cの検討:系統抽出の効率性
選択肢C:「系統抽出は、母集団に周期性がある場合でも常に単純無作為抽出より効率的である」
誤りです。周期性がある場合:
- 抽出間隔 = 周期:バイアスが発生
- 抽出間隔 = 周期の整数倍:同様にバイアス
- 周期と無関係な間隔:効率的な場合が多い
系統抽出の効率性は系列相関に依存:
- 負の系列相関:系統抽出 > 単純無作為抽出
- 無相関:系統抽出 ≈ 単純無作為抽出
- 正の系列相関:系統抽出 < 単純無作為抽出
周期性の例と対策
例 | 周期 | 問題 | 対策 |
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製造ライン | 機械サイクル | 品質の偏り | 間隔調整 |
住宅地図 | 街区パターン | 地域の偏り | 事前シャッフル |
時系列データ | 季節変動 | 時期の偏り | 層化併用 |
選択肢Dの検討:ネイマン配分(正解)
選択肢D:「ネイマン配分では、各層の標本サイズを層のサイズと標準偏差の積に比例させる」
正しいです。ネイマン配分の公式:
$$n_h = n \times \frac{N_h \sigma_h}{\sum_{k=1}^L N_k \sigma_k}$$
ここで:
- $n_h$:第h層の標本サイズ
- $N_h$:第h層の母集団サイズ
- $\sigma_h$:第h層の標準偏差
- $N_h \sigma_h$:層のサイズと標準偏差の積
この配分により、層化推定量の分散が最小化されます。
ネイマン配分の原理
- 大きな層:より多くの標本を配分
- 分散の大きな層:より多くの標本を配分
- 最適性:固定総標本サイズの下で分散最小
- 実用性:事前に各層の標準偏差が必要
理論的背景
ネイマン配分の導出
制約条件付き最適化問題:
$$\min V(\bar{y}_{st}) = \sum_{h=1}^L W_h^2 \frac{\sigma_h^2}{n_h}$$
制約条件:
$$\sum_{h=1}^L n_h = n$$
ラグランジュ乗数法により:
$$n_h \propto \frac{N_h \sigma_h}{\sqrt{c_h}}$$
費用が同一($c_h$ = 定数)の場合:
$$n_h \propto N_h \sigma_h$$
他の配分方法との比較
配分方法 | 配分原理 | 特徴 |
---|
比例配分 | $n_h \propto N_h$ | 層サイズに比例 |
等配分 | $n_h = \frac{n}{L}$ | 各層に等分 |
ネイマン配分 | $n_h \propto N_h \sigma_h$ | 分散最小化 |
最適配分 | $n_h \propto \frac{N_h \sigma_h}{\sqrt{c_h}}$ | 費用考慮 |
実際の応用例
ネイマン配分の実用例
企業規模別調査での配分:
- 大企業層:N₁=100, σ₁=50 → N₁σ₁=5000
- 中企業層:N₂=500, σ₂=20 → N₂σ₂=10000
- 小企業層:N₃=1000, σ₃=10 → N₃σ₃=10000
総標本n=100の配分:
- 大企業:$\frac{5000}{25000} \times 100 = 20$
- 中企業:$\frac{10000}{25000} \times 100 = 40$
- 小企業:$\frac{10000}{25000} \times 100 = 40$
ネイマン配分の限界
- 事前情報:各層の標準偏差の事前推定が必要
- 最小標本:極端に小さな配分への対処
- 整数制約:標本サイズの整数化調整
- 実務制約:調査の実施可能性
統計検定での出題パターン
典型的な出題形式
- 概念理解:各手法の特徴と適用条件
- 計算問題:具体的な配分や効率性の計算
- 比較問題:異なる手法の長所・短所
- 実用性:実際の調査での適用可能性
学習のポイント
- 基本公式:各手法の基本式を正確に記憶
- 適用条件:どの場面でどの手法が有効か
- 計算練習:数値例での実際の計算
- 概念整理:混同しやすい概念の区別
重要な概念の整理
概念 | 重要ポイント | 注意点 |
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有限母集団修正 | 抽出率が高い時に適用 | 5%未満では通常不要 |
層化抽出 | 層内同質・層間異質 | 逆ではない |
系統抽出 | 周期性に注意 | 常に効率的ではない |
ネイマン配分 | N×σに比例 | 分散最小化 |
実務での応用
調査設計での考慮事項
- 目的適合性:調査目的に最適な手法選択
- 実施可能性:現実的な制約条件の考慮
- 費用効率性:限られた予算での最適化
- 品質管理:推定精度の確保
結論:正解の確認
選択肢Dが正解である理由:
- 数学的正確性:ネイマン配分の公式と一致
- 理論的根拠:分散最小化の最適化理論
- 実用性:実際の調査設計で広く使用
- 基本知識:統計検定準1級の必須事項
今回の問題の総括
- 正解:選択肢D(ネイマン配分の原理)
- 重要性:標本調査法の基本概念の正確な理解
- 応用:実際の調査設計での適切な手法選択
- 学習効果:混同しやすい概念の明確化