検定編

統計的仮説検定の理論と実践を学ぼう

2つの母平均の差の検定 レベル1

2つの独立な正規母集団からそれぞれ無作為に標本を抽出した。第1の標本は大きさ n₁ = 25、標本平均 x̄₁ = 80、標本標準偏差 s₁ = 10 であり、第2の標本は大きさ n₂ = 36、標本平均 x̄₂ = 75、標本標準偏差 s₂ = 12 であった。2つの母平均に差がないという帰無仮説を有意水準5%で検定するとき、検定統計量の値を求めよ。ただし2つの母集団の分散が等しいとは仮定する。小数第2位まで求めよ。

解説
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<p>2つの母平均の差の検定を行う問題です。</p><p class='step'>1. 仮説の設定</p> <p>問題文から、以下の仮説を設定します:</p> <ul> <li>帰無仮説 $H_0$: $\mu_1 = \mu_2$ または $\mu_1 - \mu_2 = 0$ (2つの母平均に差がない)</li> <li>対立仮説 $H_1$: $\mu_1 \neq \mu_2$ または $\mu_1 - \mu_2 \neq 0$ (2つの母平均に差がある)</li> </ul><p>これは両側検定です。</p><p class='step'>2. 検定統計量の選択</p> <p>2つの独立したグループの母平均の差の検定には、t検定を用います。2つの母集団の分散が等しいと仮定できる場合、プールされた分散を用いたt検定を行います。</p><p>検定統計量 $t$ は以下のように計算されます:</p> <p class='formula'>$t = \frac{\bar{x}_1 - \bar{x}_2}{s_p \sqrt{\frac{1}{n_1} + \frac{1}{n_2}}}
lt;/p><p>ここで、$\bar{x}_1$ と $\bar{x}_2$ はそれぞれのグループの標本平均、$s_p$ はプールされた標準偏差、$n_1$ と $n_2$ はそれぞれのグループの標本サイズです。</p><p>プールされた分散 $s_p^2$ は以下のように計算されます:</p> <p class='formula'>$s_p^2 = \frac{(n_1 - 1)s_1^2 + (n_2 - 1)s_2^2}{n_1 + n_2 - 2}
lt;/p><p>ここで、$s_1^2$ と $s_2^2$ はそれぞれのグループの標本分散です。</p><p class='step'>3. 検定統計量の計算</p> <p>まず、プールされた分散を計算します:</p> <p class='formula'> \begin{align} s_p^2 &= \frac{(n_1 - 1)s_1^2 + (n_2 - 1)s_2^2}{n_1 + n_2 - 2} \\ &= \frac{(25 - 1) \times 10^2 + (36 - 1) \times 12^2}{25 + 36 - 2} \\ &= \frac{24 \times 100 + 35 \times 144}{59} \\ &= \frac{2400 + 5040}{59} \\ &= \frac{7440}{59} \\ &\approx 126.1 \end{align} </p><p>プールされた標準偏差は $s_p = \sqrt{126.1} \approx 11.23$ です。</p><p>次に、検定統計量を計算します:</p> <p class='formula'> \begin{align} t &= \frac{\bar{x}_1 - \bar{x}_2}{s_p \sqrt{\frac{1}{n_1} + \frac{1}{n_2}}} \\ &= \frac{80 - 75}{11.23 \sqrt{\frac{1}{25} + \frac{1}{36}}} \\ &= \frac{5}{11.23 \sqrt{0.04 + 0.0278}} \\ &= \frac{5}{11.23 \sqrt{0.0678}} \\ &= \frac{5}{11.23 \times 0.2604} \\ &= \frac{5}{2.9243} \\ &\approx 1.71 \end{align} </p><p class='step'>4. 臨界値の決定</p> <p>有意水準 $\alpha = 0.05$ の両側検定では、自由度 $df = n_1 + n_2 - 2 = 25 + 36 - 2 = 59$ のt分布の上側 $\alpha/2 = 0.025$ 点と下側 $\alpha/2 = 0.025$ 点が臨界値となります。</p><p>t分布表または計算ツールを用いて、$t_{59, 0.025} \approx 2.00$ を得ます。</p><p>したがって、棄却域は $t < -2.00$ または $t > 2.00$ です。</p><p class='step'>5. 判定</p> <p>計算された検定統計量 $t = 1.71$ は、臨界値 $t_{59, 0.025} \approx 2.00$ よりも小さいため、棄却域に入りません。</p><p>したがって、有意水準5%で帰無仮説 $H_0: \mu_1 - \mu_2 = 0$ を棄却することはできません。</p><p class='step'>6. 結論</p> <p>有意水準5%で、2つの母平均に差があるという十分な証拠は得られませんでした。</p><p>具体的には、第1の標本の平均(80)と第2の標本の平均(75)には5の差がありますが、この差は統計的に有意ではないと判断されました。</p><p class='note'>2つの母平均の差の検定に関する注意点:</p> <ul> <li>2つのグループの母分散が等しいという仮定が満たされない場合は、ウェルチのt検定(分散が等しくないt検定)を用いるべきです。</li> <li>標本サイズが小さい場合は、正規性の仮定が重要になります。標本サイズが大きい場合は、中心極限定理により、正規性の仮定からの逸脱の影響は小さくなります。</li> <li>対応のあるデータ(例:同じ被験者の前後の測定値)の場合は、対応のあるt検定を用いるべきです。</li> <li>統計的有意性は、実質的な重要性を必ずしも意味しないことに注意が必要です。統計的に有意な差が見られなくても、その差が実用上重要である場合もあります。</li> </ul>
問題 1/10
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