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<h4>効果量 (Effect Size) とは? なぜ重要か?</h4>
<p>統計的仮説検定を行うと、「p値」が得られます。p値は、観測された差が統計的に有意かどうか(偶然によるものとは考えにくいか)を判断するのに役立ちます。しかし、p値は<strong>差の「大きさ」や「実質的な重要性」</strong>を直接示すものではありません。標本サイズが非常に大きい場合、非常に小さな(実質的には意味のない)差でも、p値は小さくなり「統計的に有意」となることがあります。</p>
<p>そこで用いられるのが<strong>効果量 (Effect Size)</strong> です。効果量は、グループ間の差の大きさや、変数間の関連性の強さを、<strong>標準化された尺度</strong>で示す指標です。これにより、異なる研究や異なる測定単位で得られた結果を比較したり、差の実際の大きさが実質的に意味を持つものなのか(Practical Significance)を評価したりするのに役立ちます。</p><h5>Cohen's d</h5>
<p>Cohen's d は、2つのグループの<strong>平均値の差</strong>を比較する際に最も広く使われる効果量の指標の一つです。計算式は以下の通りです。</p>
<div class="formula">
$d = \frac{\text{グループ1の平均} - \text{グループ2の平均}}{text{標準偏差}} = \frac{\bar{x}_1 - \bar{x}_2}{s_{pooled}}$\
</div>
<p>ここで、分母の標準偏差には通常、両グループの標準偏差を統合した<strong>プールされた標準偏差 (Pooled Standard Deviation, \(s_{pooled}\))</strong> を用います。これは、両グループのばらつきを考慮した共通の物差しとして機能します。(この問題では、簡単のため両グループの標準偏差が等しいと仮定し、その値 \(s=10\) をそのまま用いています)</p>
<p>Cohen's d の値は、「2つのグループの平均値の差が、標準偏差の何単位分に相当するか」を示します。単位を持たない標準化された値であるため、異なる測定尺度の研究間でも比較が可能です。</p><h5>Cohen's d の解釈の目安</h5>
<p>Jacob Cohenによって提案された解釈の目安(慣例的なもの)は以下の通りです(分野によって異なる場合あり)。</p>
<ul>
<li><strong>d ≈ 0.2:</strong> 小さい効果量 (Small effect)</li>
<li><strong>d ≈ 0.5:</strong> 中程度の効果量 (Medium effect)</li>
<li><strong>d ≈ 0.8:</strong> 大きい効果量 (Large effect)</li>
</ul><h5>今回の計算</h5>
<p>問題の条件:</p>
<ul>
<li>実験群の平均: \(\bar{x}_1 = 55\)</li>
<li>対照群の平均: \(\bar{x}_2 = 50\)</li>
<li>標準偏差: \(s = 10\)</li>
</ul>
<p>Cohen's d の公式に値を代入します。</p>
<div class="formula">
$d = \frac{\bar{x}_1 - \bar{x}_2}{s} = \frac{55 - 50}{10} = \frac{5}{10} = 0.5$
</div><h5>結果の解釈</h5>
<p>したがって、Cohen's d の値は <strong>0.5</strong> です。</p>
<p>上記の目安によれば、これは「<strong>中程度の効果量</strong>」と解釈できます。実験群と対照群の平均値には、標準偏差の半分に相当する大きさの差があることを示しており、無視できない程度の影響がある可能性を示唆しています。p値による統計的有意性の判断と合わせて、結果の重要性を評価することが推奨されます。</p>