デルタ法の基本公式
デルタ法は、変換された推定量の漸近分散を求める重要な手法です。
前提条件の確認
Step 1: 標本平均の性質
正規分布$N(\mu, \sigma^2)$からの標本$X_1, \ldots, X_n$について:
$E[\bar{X}] = \mu, \quad \text{Var}(\bar{X}) = \frac{\sigma^2}{n}$
中心極限定理により:
$\sqrt{n}(\bar{X} - \mu) \xrightarrow{d} N(0, \sigma^2)$
デルタ法の適用
Step 2: 変換関数の微分
変換関数$g(\mu) = \mu^2$について、導関数を求めます:
$g'(\mu) = \frac{d}{d\mu}\mu^2 = 2\mu$
Step 3: デルタ法の適用
デルタ法の基本公式:
$\sqrt{n}(g(\bar{X}) - g(\mu)) \xrightarrow{d} N(0, [g'(\mu)]^2 \sigma^2)$
導関数$g'(\mu) = 2\mu$を代入:
$\sqrt{n}(\bar{X}^2 - \mu^2) \xrightarrow{d} N(0, (2\mu)^2 \sigma^2)$
$= N(0, 4\mu^2\sigma^2)$
漸近分散の導出
Step 4: 漸近分散の計算
上式を整理すると:
$\bar{X}^2 - \mu^2 \xrightarrow{d} N\left(0, \frac{4\mu^2\sigma^2}{n}\right)$
したがって、$\bar{X}^2$の漸近分散は:
$\text{avar}(\bar{X}^2) = \frac{4\mu^2\sigma^2}{n}$
結果の解釈
Step 5: 分散の構造
漸近分散$\frac{4\mu^2\sigma^2}{n}$の各要素の意味:
- $4\mu^2$:変換関数の導関数の2乗$(g'(\mu))^2 = (2\mu)^2$
- $\sigma^2$:元の分布の分散
- $\frac{1}{n}$:標本サイズによる分散の減少
Step 6: 特殊なケース
$\mu = 0$の場合:
$\text{avar}(\bar{X}^2) = \frac{4 \cdot 0^2 \cdot \sigma^2}{n} = 0$
これは$\mu = 0$のとき$\bar{X}^2$の期待値が$\frac{\sigma^2}{n}$で一定になることを示しています。
デルタ法の重要性
- 変換統計量の分散:非線形変換された統計量の漸近分散を求める
- 信頼区間の構成:変換後のパラメータの区間推定に利用
- 実用的な応用:多くの統計手法で使用される基本的な手法
計算手順のまとめ
Step 7: 一般的な手順
- 元の推定量の漸近分布を確認
- 変換関数の導関数を計算
- デルタ法の公式を適用
- 漸近分散を導出
したがって、$\bar{X}^2$の漸近分散は$\frac{4\mu^2\sigma^2}{n}$となります。