確率過程

マルコフ連鎖、ポアソン過程、ブラウン運動、マルチンゲールなど統計検定準1級レベルの確率過程理論を学習します。

ポアソン過程の性質と応用 レベル1

強度$\lambda = 2$のポアソン過程において、時間区間$[1, 3]$で事象が2回ちょうど起こる確率はいくらか。

解説
解答と解説を表示

この問題では、ポアソン過程の定常増分性と区間確率の計算について理解を深めます。ポアソン過程は1837年にポアソンによって導入され、待ち行列理論、信頼性工学、疫学など幅広い分野で「ランダムな事象の到着」をモデル化する基本的な確率過程です。

ポアソン過程:ランダム事象の数学的モデル

ポアソン過程は、時間軸上でランダムに発生する事象(顧客の到着、機械の故障、電話の着信など)を記述する確率過程で、現代の確率論と応用数学の基礎となっています。

Step 1: ポアソン過程の公理的定義

強度$\\lambda > 0$のポアソン過程$\\{N(t), t \\geq 0\\}$は、以下の4つの公理を満たす計数過程です:

ポアソン過程の基本公理
  1. 初期条件:$N(0) = 0$(時刻0では事象が発生していない)
  2. 独立増分性:重複しない時間区間での増分は統計的に独立
  3. 定常増分性:増分の分布は区間の長さのみに依存(時間シフト不変)
  4. 単純性:同時に複数の事象が発生する確率は0

これらの公理から、以下の基本性質が導かれます:

$$N(t) \\sim \\text{Poisson}(\\lambda t)$$

確率質量関数:

$$P(N(t) = k) = \\frac{(\\lambda t)^k e^{-\\lambda t}}{k!}, \\quad k = 0, 1, 2, \\ldots$$

Step 2: 強度パラメータの理解

強度$\\lambda$の意味:

  • 期待到着率:単位時間あたりの期待事象発生回数
  • 瞬間確率:$P(N(t+dt) - N(t) = 1) = \\lambda dt + o(dt)$
  • 物理的解釈:時間軸での「密度」概念

与えられた条件:

  • 強度:$\\lambda = 2$(1時間あたり平均2回の事象発生)
  • 時間区間:$[1, 3]$(2時間の観測期間)
  • 観測回数:$k = 2$(実際に観測された事象回数)

Step 3: 定常増分性の深い理解

定常増分性は「増分の確率分布が時間の絶対位置ではなく、区間の長さのみに依存する」という性質です:

$$N(t+h) - N(t) \\stackrel{d}{=} N(h) - N(0) = N(h)$$

この性質の重要な帰結:

  • 区間$[1, 3]$での事象発生回数は、区間$[0, 2]$での発生回数と同じ分布
  • 時刻の「絶対値」は無関係で、「区間の長さ」のみが重要
  • どの時点から観測を始めても、同じ長さの区間では同じ確率分布

Step 4: ポアソン分布パラメータの決定

時間区間$[1, 3]$でのポアソン分布のパラメータは:

$$\\mu = \\lambda \\times \\text{区間長} = 2 \\times (3-1) = 4$$

これは、2時間の間に期待される事象発生回数が4回であることを意味します。

ポアソン分布の統計的性質
統計量公式今回の値
期待値$E[N(t)] = \\lambda t$$4$
分散$\\text{Var}[N(t)] = \\lambda t$$4$
標準偏差$\\sqrt{\\lambda t}$$2$
変動係数$\\frac{1}{\\sqrt{\\lambda t}}$$0.5$

Step 5: 確率計算の実行

ポアソン分布$\\text{Poisson}(4)$での確率:

$$P(N(3) - N(1) = 2) = \\frac{4^2 e^{-4}}{2!}$$

数値の詳細計算:

  • $4^2 = 16$:「成功」の組み合わせ数
  • $e^{-4} \\approx 0.0183$:「抑制因子」(多すぎる発生を防ぐ)
  • $2! = 2$:順序を考慮しない補正
$$P(N(3) - N(1) = 2) = \\frac{16 \\times 0.0183}{2} \\approx 0.1465$$

約14.65%の確率で、この2時間の間にちょうど2回の事象が発生します。

Step 6: 誤答選択肢の徹底分析

各選択肢の誤りの根源:

よくある誤解パターン
選択肢誤りの内容間違った考え方
$\\frac{2^2 e^{-2}}{2!}$強度のみ使用区間長を考慮せず
$\\frac{6^2 e^{-6}}{2!}$時刻の平均値使用$(1+3) \\times \\lambda/2$
$\\frac{8^2 e^{-8}}{2!}$時刻の合計使用$(1+3) \\times \\lambda$
$\\frac{3^2 e^{-3}}{2!}$終了時刻×強度の誤用$3 \\times \\lambda/2$

これらの誤答は、定常増分性の理解不足や「区間長」概念の混乱に起因します。

ポアソン過程の深い性質と理論

Step 7: 到着間隔時間の指数分布

ポアソン過程において、連続する事象間の時間間隔$T_i$は独立で同分布の指数分布に従います:

$$T_i \\sim \\text{Exp}(\\lambda)$$

確率密度関数:

$$f_T(t) = \\lambda e^{-\\lambda t}, \\quad t \\geq 0$$

指数分布の無記憶性:

$$P(T > s + t | T > s) = P(T > t)$$

これは「待った時間は次の到着時間の期待値に影響しない」ことを意味し、ポアソン過程の基本的特徴です。

Step 8: 条件付き分布と順序統計量

$N(t) = n$が与えられたとき、$n$個の到着時刻$0 < S_1 < S_2 < \\cdots < S_n < t$は、区間$[0, t]$での$n$個の独立な一様分布の順序統計量と同じ分布を持ちます。

$$(S_1, S_2, \\ldots, S_n | N(t) = n) \\stackrel{d}{=} (U_{(1)}, U_{(2)}, \\ldots, U_{(n)})$$

ここで$U_{(i)}$は区間$[0, t]$での一様分布の順序統計量です。

Step 9: 独立増分性の詳細

重複しない時間区間での増分は統計的に独立:

$$P(N(t_2) - N(t_1) = k_1, N(t_4) - N(t_3) = k_2) = P(N(t_2) - N(t_1) = k_1) \\times P(N(t_4) - N(t_3) = k_2)$$

ただし、$[t_1, t_2] \\cap [t_3, t_4] = \\emptyset$

この性質により、複雑な時間区間での確率計算を単純な積に分解できます。

実世界への応用と拡張

Step 10: 非同質ポアソン過程

強度が時間依存$\\lambda(t)$の場合:

$$P(N(b) - N(a) = k) = \\frac{\\left[\\int_a^b \\lambda(s)ds\\right]^k \\exp\\left(-\\int_a^b \\lambda(s)ds\\right)}{k!}$$

応用例:

  • 電話着信:日中は高強度、夜間は低強度
  • ウェブアクセス:時間帯による変動
  • 交通流:通勤時間帯の影響

Step 11: 複合ポアソン過程とリスク理論

各事象に「大きさ」や「価値」が付随する場合:

$$S(t) = \\sum_{i=1}^{N(t)} Y_i$$

ここで$Y_i$は独立同分布のランダム変数(クレーム額、損失規模等)

保険数理学での応用:

  • 総クレーム額:一定期間での保険支払総額
  • リスク測度:VaR(Value at Risk)の計算
  • 再保険:リスク分散の数理モデル

Step 12: 待ち行列理論における基礎

M/M/1待ち行列システム:

  • M(Markovian):ポアソン到着過程
  • M(Markovian):指数サービス時間
  • 1:単一サーバー

このシステムでは、以下の性能指標が解析的に求まります:

M/M/1待ち行列の性能指標
指標公式意味
利用率$\\rho = \\frac{\\lambda}{\\mu}$サーバーの忙しさ
平均待ち時間$W = \\frac{\\rho}{\\mu(1-\\rho)}$サービス開始までの時間
平均系内客数$L = \\frac{\\rho}{1-\\rho}$システム内の総顧客数

理論的価値
ポアソン過程は「純粋にランダム」な現象の数学的な型化です。現実の多くの現象は完全にはポアソン的ではありませんが、このモデルを基準点として、実際のデータの「ランダムさからの逸脱」を定量化できます。また、より複雑な確率過程(複合ポアソン過程、コックス過程等)の構築基盤としても機能します。定常増分性という美しい性質により、複雑な時間発展現象を、区間ベースの単純な計算に帰着させることができる点で、理論と実用の両面で価値の高いツールです。

問題 1/10
カテゴリ一覧に戻る