標本を大きくすると「たまたまのばらつき」は小さくなり得ます。しかし、名簿から漏れている人は、何万人調べても選ばれません。この問題は標本誤差と偏りの違いです。
小さくなるものと残るもの
無作為抽出がうまくいっているとき、標本平均のばらつき(標準誤差)は標本の大きさ$n$の平方根に反比例します。
$\text{標準誤差} \propto \dfrac{\sigma}{\sqrt{n}}$
$n$を1,000から10,000へ10倍にすると、標準誤差は$1/\sqrt{10}\approx0.32$倍になり、偶然のぶれは小さくなり得ます。一方、固定電話帳にない世帯は、標本を増やしても枠に入らないので選ばれません。このずれは偏り(系統的な誤差)です。
正解の理由
偶然によるばらつきは小さくなり得ますが、電話帳にない世帯の漏れは残ります。「大標本なら偏りも消える」は成り立ちません。
他の選択肢が誤りである理由
- 電話帳にない世帯の漏れも必ず消える: 漏れは枠の問題なので、$n$を増やしても消えません。
- 対象母集団の定義は不要になる: 人数が増えても「誰について語るか」は必要です。定義を省略すると、何の推定か分からなくなります。
- 全数調査と同じになる: 電話帳の一部をどれだけ厚く調べても、電話帳の外は未調査のままです。全数調査(市内全世帯)にはなりません。
精度と正確さ
- 精度(ばらつきの小ささ): 主に$n$を増やすと改善し得る
- 正確さ(偏りのなさ): 標本枠・質問・非回答の設計に依存する
大きな標本は精密な誤答にもなり得ます。3級では「人数を増やせば何でも直る」を否定します。
2級・準1級への橋渡し: 2級では、母集団が正規分布なら $\bar{X}\sim N(\mu,\sigma^2/n)$ です。一般にも標本が十分大きいときは正規分布で近似し、信頼区間の幅が$1/\sqrt{n}$で狭まることを計算します。その式は無作為抽出が偏りなく行えているときの話です。準1級では、偏りのある抽出をいくら大きくしても一致性(真値への収束)が壊れる場合があると学びます。3級では直観として、ばらつきと偏りを分けられれば十分です。
したがって、偶然のばらつきは小さくなり得るが、電話帳にない世帯の漏れは残ります。