第1種の誤りと第2種の誤りのトレードオフ
分野: 検定
定義の暗記ではなく、棄却域を動かしたときのαとβのトレードオフを問う問題です。品質管理でも臨床でも、「偽陽性を減らす」操作は「偽陰性を増やす」方向に働きがちです。
1. 2種類の誤り
- 第1種:真の $H_0$ を棄却する(偽陽性)。確率は有意水準 $\alpha$ で制御します。
- 第2種:偽の $H_0$ を棄却しない(偽陰性)。確率は $\beta$、検定力は $1-\beta$ です。
2. 棄却域を狭める効果
$\alpha$ を0.05から0.01に下げると、臨界値は外側に動き棄却しにくくなります。$H_0$ が真のときの誤棄却は減りますが、$H_1$ が真のときに棄却域へ入る確率(検定力)も下がるため、一般に $\beta$ は増えます。これがトレードオフです。
3. 両方を改善する方法
標本サイズを増やす、効果量が大きい、測定誤差を減らす、と検定力は上がり $\beta$ は下がります。$\alpha$ 自体は研究者が設定する値で、nを増やしても「設定したα」は変わりません(分布の近似が良くなるだけです)。
4. 選択肢の検討
- αを小さくすると両方減る → 誤り。αは減りますがβは増えやすいです。
- α+β=1 → 誤り。一方は $H_0$ 真、他方は $H_1$ 真の条件付き確率で、足して1にはなりません。
- nを増やしてもβ不変 → 誤り。n増は検定力を上げβを下げます。
- β=α → 誤り。βは効果量・n・αに依存する別の確率です。
- αを小さくすると第1種は減り第2種は増えやすい → 正しい。
αを厳しくするだけでは「良い検定」にならない
偽陽性を極端に嫌う検査ではαを下げ、見逃しを嫌うスクリーニングではαを緩める、など目的で決める。両方を良くしたければnか効果量の設計が必要です。
片側・両側の切替も棄却域の形を変えるため、同じαでもβは変わります。本問は「他条件固定でαだけ動かす」場合の向きに集中します。
5. 現場での決め方
新薬の承認では偽陽性(無効な薬を通す)を嫌うのでαを小さくします。その代償として、本当は効く薬を見逃すβが増え得ます。感染症の入口スクリーニングでは見逃しを嫌うので、αを緩め感度を優先することがあります。どちらが正しいかは損失の非対称性で決まり、数表の暗記では決まりません。
$\alpha+\beta=1$ という誤解は、棄却/保留を1回の試行の2結果と見た混同です。実際は条件付き確率の土台($H_0$ 真か $H_1$ 真か)が違います。nを増やすと、同じαのまま検出力 $1-\beta$ を上げられるので、トレードオフを緩和できます。
効果量がごく小さいと、nを増やしても実務的に無意味な差を「検出」するだけ、という別問題が起きます。本問はαとβの向きに限定します。
棄却域を狭める操作は、臨界値を外側へ動かす操作です。$H_0$ のもとでの誤棄却は減り、$H_1$ のもとでの棄却(検出力)も減ります。同じ方向に動くのがαと検出力で、逆方向に動くのがαとβです。選択肢の「両方減る」は、検出力とβを取り違えています。定義に戻ると誤りがすぐ見えます。
検出力分析は、このトレードオフを数字にする技術です。目標のβ(よく0.20、検出力0.80)とαと効果量を決めると必要nが出ます。αだけを厳しくしてnを据え置くと、検出力不足で『効果がない』と誤って結論しやすくなります。第2種の誤りは見えにくい失敗なので、計画書にβの目標を書くことが実務的な予防です。
他条件固定ならα↓⇒第1種↓かつ第2種↑がトレードオフの向きです。両方減る、α+β=1、n増でもβ不変、β=α、は定義か条件付き確率の土台を間違えています。
したがって、正しいのは「αを小さくすると第1種は減るが第2種は増えやすい」です。