集落抽出のメリットとリスク
この問題では、集落抽出(クラスター抽出)の実務上のメリットと、集落内相関(ICC)が正のときに起きやすい精度低下を、定性的に理解します。
1. 集落抽出とは
母集団をクラス、店舗、地区などの集落(クラスター)に分け、集落を抽出し、選ばれた集落の中を全数(または多数)調べる方法です。本問ではクラスが集落です。調査員は選ばれた教室へ行けばよく、町内の個人宅をバラバラに訪問する必要がありません。名簿も、全児童の個人連絡先より、クラス一覧の方が作りやすいことがあります。
2. メリットはコストと枠の整備
教育委員会や学校経由でクラス単位に依頼できれば、協力の取り付けも容易です。同じ $n$ 人を調べるにしても、地理的に分散した個人抽出より、移動時間と人件費が下がります。これが集落抽出を選ぶ主因です。精度が必ず上がるから選ぶ、というわけではありません。
3. リスクは正のICC
同じクラスの児童は、家庭の地域、給食指導、担任の声かけが共通し、朝食習慣が似ることがあります。このとき集落内相関係数(ICC)は正になりやすいです。似た子をまとめて取るので、400人調べても「実質的に独立な情報」は400人分より少なくなります。有効標本サイズが目減りし、同じ人数のSRSより推定のばらつきが大きくなりやすい、というのが精度上のリスクです。
ICCが正のとき精度が落ちやすい
クラス内が完全に独立(ICC$\approx 0$)なら、集落抽出の精度損失は小さくなります。実際の学校調査ではICCが正であることが多く、「人数が同じだからSRSと同じ精度」とは言えません。コストを節約する代わりに、精度をやや譲る、というトレードオフです。2級では分散の公式を覚える必要はなく、似た人をまとめて取ると情報が重複するという直観で十分です。
4. 層化との違い
層化は、異質なグループをすべて層として設計に入れ、各層から取ります。集落抽出は、多くのクラスのうち一部のクラスだけを選びます。層化は層間の差を確定的に取り込み、集落抽出は選ばれなかったクラスの情報を捨てます。名前が似ていても設計思想は逆に近いです。
5. 各選択肢の検討
- 「似ていても常にSRSより精密」→ 誤り。ICCが正なら、むしろ精度は落ちやすいです。
- 「クラス全員を調べるので標本誤差はゼロ」→ 誤り。選ばれなかったクラスが残るため、町村全体に対する標本誤差は残ります。全数調査ではありません。
- 「集落抽出は層化の別名」→ 誤り。上記のとおり、一部の集落を選ぶか、すべての層から取るかが違います。
- 「利点がなく常に劣るので採用すべきでない」→ 誤り。訪問コストや枠の整備では利点があります。精度との兼ね合いで採用します。
- 「コストを抑えられる一方、正のICCで精度が落ちやすい」→ 正しい。
5. 有効標本サイズの直観
クラスの人数を $m$、クラス内相関を正の $\rho$ とすると、同じクラスの児童は重複した情報を持ちます。極端に $\rho=1$ なら、クラスを1人調べたのと全員調べたのが同じ情報になります。実際の $\rho$ は1より小さいですが、朝食習慣のように家庭と地域が共有される項目ではゼロより明らかに大きいことが多いです。そのとき「400人調べた」は、独立な400人分の精度にはなりません。
それでも集落抽出を選ぶのは、訪問回数と学校との窓口を減らせるからです。精度が必要なら、選ぶクラス数を増やす(集落を細かく多く取る)方が、1クラスの全員を厚く取るより効くことがあります。2級では公式を展開せず、このトレードオフを言葉で説明できれば十分です。
したがって、集落抽出は調査コストを抑えられる一方、クラス内相関が正だと精度が落ちやすい、と理解します。