フィッシャー3原則:反復の役割
この問題では、フィッシャーの3原則のうち反復(replication)が何をするかを、熱処理の硬度比較で確認します。無作為化や局所管理と文面を混ぜないことが要点です。
1. 3原則の分担
実験計画の3原則は次のように役割分担します。
- 反復:同じ処理を複数の実験単位に適用し、誤差を見積もる
- 無作為化:処理の割付を乱数にし、系統的偏りを平均的に避ける
- 局所管理(ブロック化):既知の異質性で比較の場を揃え、誤差分散を減らす
反復は「回数をこなす」こと自体が目的ではなく、処理の差と、同じ処理でも生じるばらつきを分けて測るための原則です。
2. 1回だけの実験で何が起きるか
低・中・高で硬度がそれぞれ 42, 45, 44 と出たとします。中が最も高いように見えます。しかし同じ温度でも、炉の位置、部品の材質ロット、測定の読み取りで硬度はぶれます。観測が1つしかないと、そのぶれ(実験誤差)の大きさが分かりません。差が3あるのが「温度の効果」なのか「たまたまのぶれ」なのかを、データから分離できません。統計的検定や信頼区間の分母になる誤差分散の推定には、同じ処理の繰り返しが必要です。
$$\text{観測} = \text{処理の効果} + \text{実験誤差}$$
処理ごとに繰り返しがあると、処理内のばらつきから誤差を見積もり、処理間のばらつきと比べられます。これが分散分析の発想の土台でもあります。
反復は「同じ処理を独立な実験単位へ」
同じ部品を3回測り直す(繰り返し測定)と、炉を3回独立に通す(反復)は違います。後者は、実験単位ごとの誤差を含みます。2級では厳密な定義の差より、「各水準1点だけでは誤差が見積もれない」を押さえます。この工場なら、各温度で複数ロット・複数シフトを独立に処理するのが反復です。
3. 反復がしないこと
反復を増やしても、割付が「良さそうな部品を高温へ」なら交絡は残ります。それが無作為化の仕事です。炉が古い・新しいで系統的に違うなら、炉をブロックにするのが局所管理です。反復は誤差の見積もりと検出力の確保であり、交絡を消す装置ではありません。
4. 各選択肢の検討
- 「交絡を必ず同一にする」→ 誤り。それは無作為化に対する誤解です。反復の役割ではありません。
- 「単純無作為抽出と同じ」→ 誤り。抽出は誰を調べるか、反復は選ばれた実験単位に同じ処理を何回適用するかです。
- 「1回で誤差が一意に定まる」→ 誤り。1点では処理内変動が計算できません。
- 「繰り返して処理効果と誤差を分離し、ばらつきを見積もる」→ 正しい。
- 「ブロックを作ることが目的」→ 誤り。それは局所管理です。
5. 反復と検出力
誤差分散が大きい工程では、同じ処理差でも、反復が少ないと差が誤差に埋もれます。反復を増やすと、平均の標準誤差が小さくなり、温度の効果を検出しやすくなります。これが検出力の話です。ただし反復は、偏った割付を打ち消しません。悪い部品ばかり高温に回す規則があれば、回数を増やしても偏りは残ります。
「3回測った」と書いてあっても、同一ロットを再測定しただけなら、ロット間のばらつきは捉えられません。実験単位(独立に処理できる部品や炉の運転)を何回用意したかを見ます。刈谷の例では、各温度で複数の独立運転が反復です。
反復が足りないまま有意差だけを追うと、1回の外れ値で温度の優劣が決まります。硬度のような工程特性は、炉の運転ごとのばらつきが大きいことが多いので、各水準に独立な運転を複数置くことが、3原則の第一歩です。
したがって、反復の役割は、同じ処理を複数の実験単位で繰り返し、処理効果と実験誤差を分離して差のばらつきを見積もることです。