3原則を満たさない実験の欠陥診断
この問題では、欠陥の複合を、フィッシャーの3原則のそれぞれに対応づけて診断します。一つの原則の名前を答える問題ではなく、何が欠け、それがどの原則の失敗かを同時に見るL3の適用です。
1. 反復の欠損
各教材1人では、その得点が教材の効果なのか、その人の学力・その日の体調なのか分離できません。処理内のばらつきが観測できず、誤差分散をデータから見積もれません。「Xが80点、Yが70点」でも、差の10点が再現するのか分かりません。これは反復の原則に反します。人数が少ない、という感想で終わらせず、「同じ処理を複数の実験単位に置いていない」と原則へ対応させます。
2. 無作為化の欠損
上司の見込みでX/Y/Zへ分けるのは、開始前の能力を処理に結び付ける規則です。X群の得点が高くても、教材Xが良いのか、もともと伸びそうな人が入ったのか分かりません。無作為化は、このような系統的偏りを避け、未知の交絡も含めて平均的に均衡させるための原則です。上司の主観は、その均衡を意図的に壊しています。
3. 局所管理の欠損
開発・営業・管理では、研修に割ける時間も、日常的に触れる知識も違います。部署は実験前から分かる異質性です。ブロック化すれば、部署の中で教材を比較できます。それを無視して3人を部署横断で1人ずつ置くと、部署の繁忙や職務内容が教材効果に交絡し、誤差も膨らみます。
欠陥と原則の対応表
- 各教材1人 → 反復なし(誤差が測れない)
- 上司の見込み割付 → 無作為化なし(能力が処理に結び付く)
- 部署差を無視 → 局所管理なし(既知の異質性が交絡・誤差に残る)
一つ直せば他が自動的に満たされる、という関係ではありません。3原則は独立に破られ、独立に直します。
4. 改善の方向(診断の後)
部署をブロックにし、各部署の中で教材を乱数割付し、各教材に複数の新人を置く、が3原則を同時に満たす方向です。本問は改善案の計算ではなく、現状が原則のどれに反するかを言い切ることが課題です。
5. 各選択肢の検討
- 「3原則はすべて満たされている」→ 誤り。3つとも欠けています。
- 「欠陥は測定バイアスのみ」→ 誤り。テストの誘導は別問題になり得ますが、本計画の主欠陥は設計の3原則です。割付も反復もブロック化も問題あります。
- 「反復・無作為化・局所管理がいずれも欠けている」→ 正しい。
- 「上司の見極めが局所管理」→ 誤り。局所管理は既知の異質性で比較の場を揃えることです。能力の見立てで処理を割り当てるのは、むしろ無作為化の破壊です。
- 「人数が少ないだけ」→ 誤り。少ないことは反復不足と関係しますが、選択的割付と部署無視は人数とは別の欠陥です。原則との対応はつけられます。
6. 診断を改善案に翻訳する
反復の欠損 → 各教材に複数の新人を置く。無作為化の欠損 → 上司の見込みではなく乱数(または部署内乱数)で教材を割り当てる。局所管理の欠損 → 部署をブロックにし、部署内で3教材を比較する。この三つを同時に書くと、元の計画がどれだけ原則から遠いかがはっきりします。
「伸びそう」という見込み自体は、共変量として記録し、あとで調整や層別の材料にできます。見込みで処理を決めることと、見込みを測っておくことは別です。前者は原則違反、後者は解析の補助です。
複合欠陥の診断では、一番目立つ人数の少なさだけに回収されがちです。3人を30人に増やしても、上司の見込み割付と部署無視が残れば、反復以外の原則は満たされません。原則ごとにチェックリストを通す習慣がL3の要点です。
原則の名前を暗記するだけでなく、現場の手続きを原則に翻訳できるかがL3です。見込み割付・1人1教材・部署無視は、それぞれ無作為化・反復・局所管理の欠落です。
したがって、この実験は反復・無作為化・局所管理のすべてを欠いています。