無回答バイアスと感度
この問題では、無回答バイアスが標本サイズの増加では消えないことと、感度の考え方を扱います。選択バイアス(送る前に枠から外す)と違い、枠には入ったが返ってこない、という欠測です。
1. 無回答がバイアスになる条件
未返信が完全に無作為(受診意向と無関係)なら、回答者平均は母平均の不偏推定に近づき得ます。問題は、健康関心が低い人ほど未返信、かつその人ほど受診意向も低い、という相関です。返ってきた票は関心の高い層に偏り、受診意向は過大推定されます。これは欠測が結果と関係する仕組みであり、$n$ の問題ではありません。
2. なぜ $n$ を増やしても消えないか
発送を2,000から4,000にすると、返ってくる票も増え、標本誤差(偶然のばらつき)は小さくなり得ます。しかし「関心が低い人ほど返さない」という仕組みが同じなら、回答者の構成は同じ方向に偏ったままです。4,000人の精密な過大推定になります。精度と正確さの区別です。
$$\text{回答者の平均} = \text{全体の平均} + \text{無回答によるずれ}$$
右辺第2項は、発送数の関数としては消えません。回答率を上げる努力(催促、別チャネル)や、既知属性による重み付けは別途必要です。
感度の考え方
未回答者の受診意向は観測できません。そこで「未回答者の意向は回答者より10ポイント低い」など、いくつかの想定を置いて全体推定を再計算します。想定を変えても結論がほとんど動かなければ、その結論は無回答に対して頑健です。大きく動けば、発表できる精度を落とすか、追加調査が必要です。感度分析はp値を小さくする操作ではなく、見えない人についての仮定を動かして、結論の揺れを可視化することです。
3. 回答率の閾値神話
回答率50%を下回ったら常に無意味、という規則はありません。重要なのは、未回答が結果とどれだけ関係しそうかです。回答率が高くても、残った未回答が極端に偏ればバイアスは残ります。逆に、属性の偏りが小さく、感度分析でも結論が安定すれば、中程度の回答率でも使えることがあります。ただし低い回答率は警告信号であり、無視してよい免許ではありません。
4. 各選択肢の検討
- 「$n$ では消えず、未回答者の想定を動かすのが感度」→ 正しい。
- 「発送を増やせば必ず消える」→ 誤り。本問の主旨に反します。
- 「50%未満は常に無意味」→ 誤り。機械的な閾値ではありません。
- 「抽出し直す以外に議論できない」→ 誤り。催促、層別回答率の点検、重み付け、感度分析が可能です。
- 「感度分析はp値を0.05未満にすること」→ 誤り。有意にすることは別問題です。
5. 感度の数値イメージ
2,000人中1,200人が回答し、受診意向ありが60%だったとします。未回答800人の意向を、回答者と同じ60%、40%、20%と置くと、全体推定はそれぞれ60%、52%、44%と動きます。政策判断が「過半数」なら、20%想定では結論が変わります。この揺れを会議に出すのが感度です。発送を4,000人にしても、回答率が同じ仕組みなら、揺れの幅はほぼ残り、小数点以下だけが安定します。
層別回答率(年齢・地区)を見るのは、どの層が欠けているかの診断です。欠けている層へ催促するのは、$n$ を無差別に増やすより、偏りの仕組みに直接効きます。
無回答バイアスと選択バイアスは隣接しますが、本問の2,000人は台帳から無作為抽出されています。枠には入ったが返ってこない、が無回答です。ヘビーユーザーにしか送らない選択とは点検箇所が違います。感度は、返ってこない人の数値を動かす操作です。
したがって、無回答が結果と相関し得るとき $n$ 増加では偏りは残らず、未回答者の想定を動かすのが感度の考え方です。