因果主張の可否(観察+調整の限界)
この問題では、観察研究に回帰調整を足しても、介入の因果効果を確定したことにはならないという限界を、運送会社の休憩と安全という複合ケースで判断します。1問目の交絡定義、8問目の割付、13問目の交絡識別を接続します。
1. 何が観察で、何が主張か
P社は休憩時間をドライバーに無作為割付していません。休憩の長さは、便の種類、渋滞、本人の働き方、管理者の指示で決まります。年齢と走行距離を回帰に入れたのは、分かっている交絡の一部を条件付きで除く操作です。担当者の主張は「これから休憩を延ばす」という介入の効果です。データが示すのは、過去に休憩が長かった人・便でヒヤリハットが少なかった、という条件付き関連です。
2. 調整が消すものと残すもの
年齢と走行距離が、休憩とヒヤリハットの両方に効いているなら、それを入れることでその経路の交絡は弱まります。しかし次は残り得ます。
- 未測定の交絡:夜間便の比率、車両の新旧、睡眠、性格、指令の厳しさ
- 逆因果:ヒヤリハットが多い便ほど、その後に休憩を取らされる(結果が処理に影響)
- 測定のずれ:休憩の自己申告、ヒヤリハットの報告文化の部署差
回帰の $p\lt 0.01$ は、「年齢と走行距離を固定したモデルの中で、係数がゼロという仮説がデータと食い違う」ことしか言いません。モデルに入っていない交絡が無い、とは言いません。
観察+調整の正しい読み方
- 言ってよい:年齢・走行距離を調整したうえでの関連がある
- 言いすぎ:休憩を延ばせば件数は減る、と確定する
- 次の設計:便やドライバーを単位に、休憩ルールを無作為に変える実験、または段階導入の比較
調整分析は探索と仮説生成には有用です。因果の確定は、処理の操作と割付(またはそれに準ずる識別戦略)が担います。
3. 符号とp値の神話
係数が負なのは「長い休憩と少ない件数」が同じ方向に動いている、という記述です。原因の向きは符号からは出ません。p値が小さいのは、標本誤差の意味で関連が目立つことであり、バイアスが無いことの証明ではありません。大きな $n$ では、小さな偏りでもp値は小さくなり得ます。
4. 各選択肢の検討
- 「調整した観察研究は実験と同等」→ 誤り。無作為割付が平均的に均衡させる未知交絡を、観測変数の調整はカバーし切れません。
- 「pが小さければ未測定交絡はない」→ 誤り。p値は交絡の検定ではありません。
- 「未測定交絡や逆因果が残り得るので介入主張はしすぎ」→ 正しい。
- 「負の係数が因果の向きを保証」→ 誤り。符号は関連の方向です。
- 「観察研究では関連すら述べてはならない」→ 誤り。関連の記述と予測は可能です。禁じられるのは、調整しただけで介入効果を確定することです。