観察研究と実験研究、標本調査法、フィッシャーの3原則、バイアスの識別に関する問題
A市の部品メーカーB社は、過去1年の勤怠記録と年2回のストレスチェックを突合し、「週あたり在宅勤務日数が多い社員ほどストレス得点が低い」という関連を観察した。人事部は「在宅日数を増やせばストレスは下がる」と社内に周知しようとしている。この主張が、得られたデータだけからは直ちにできない主な理由として最も適切なものはどれか。
この問題では、観察研究で見つかった関連から、介入の因果効果を主張できない理由を問います。核心は交絡因子の定義です。
1. 観察研究と実験研究の違い
観察研究では、研究者が処理(ここでは在宅日数)を実験単位に割り当てません。社員が業務上の都合や職種の制約で在宅日数を選び、その結果としてストレス得点が記録されます。一方、実験研究では研究者が処理を操作し、誰がどの条件を受けるかを設計します。B社のデータは既存記録の突合であり、在宅日数を人事が無作為に割り付けたわけではありません。したがって観察研究です。
2. 交絡因子とは何か
交絡因子(confounder)は、関心のある説明変数と結果変数の両方に影響し得る第三の変数です。在宅日数とストレスの両方に関係する要因が残っていると、「在宅が多いからストレスが低い」のか、「もともとストレスが低くなりやすい職種が在宅しやすい」のかを切り分けられません。
例えば、企画職は在宅しやすく、かつ裁量の大きさからストレス得点が低い、製造現場は在宅しにくく身体的負担が大きい、といった経路があり得ます。通勤時間が長い人ほど在宅を選び、同時に通勤ストレスも大きい、という逆向きの交絡もあり得ます。観察された負の関連は、こうした背景要因の影である可能性があります。
3. なぜ「在宅を増やせば下がる」と言えないのか
「在宅日数を増やせばストレスは下がる」は、介入(在宅日数を変える)の効果の主張です。観察研究が見せるのは「一緒に動いている」ことであり、「一方を動かすと他方が変わる」ことではありません。交絡が残っている限り、在宅を増やしても職種や通勤の構造が変わらなければ、ストレスは下がらないかもしれません。逆に、在宅を増やしたことでコミュニケーション不足が起き、ストレスが上がる可能性すら、このデータだけでは否定できません。
人事が社内周知したいのは因果です。関連の観察だけでは足りません。
4. 各選択肢の検討
後の回帰で職種や通勤時間を共変量に入れても、測っていない交絡や逆因果は残り得ます。観察データの調整は「交絡が全部観測されている」という強い仮定の下での話であり、無作為割付の代替にはなりません。
5. 実務での次の一手
観察研究が無意味だということではありません。在宅とストレスの関連は、誰に在宅を勧めるかの仮説を与えます。因果に近づけるには、部署や職種をブロックにしたうえで在宅日数の上限を無作為に変える、あるいは段階的に制度を導入して導入前後と未導入部署を比べる、といった設計が必要です。回帰で職種を調整しても、測っていない性格や家庭事情は残ります。発表の文は「関連が見られた」までにとどめ、「増やせば下がる」は実験またはそれに準ずる比較まで保留します。
交絡の定義を一言で繰り返すと、説明変数と結果の両方に影響し得る第三の変数です。本問では職種や通勤負担がその候補です。整数尺度であることやサーベイであることは、この定義と無関係です。
したがって、直ちに因果を主張できない主な理由は、在宅日数とストレスの両方に関係し得る交絡因子が取り除けていないことです。