無作為抽出と無作為割付の区別
この問題では、無作為抽出と無作為割付を、病院の歩行訓練という一つの計画の中で区別します。乱数を使ったから因果も一般化も両方守られる、という混同を解きます。
1. 二つの無作為化は目的が違う
無作為抽出は、「誰を調べるか」を決める操作です。入院患者という母集団の名簿から80人を乱数で選べば、各患者が選ばれる機会が公平に近づき、得られた推定をその母集団へ一般化しやすくなります。無作為割付は、「選ばれた人をどの処理に置くか」を決める操作です。新プログラムと従来訓練へ乱数で分ければ、開始前の歩行能力・意欲・合併症が、一方の群へ系統的に偏りにくくなります。
$$\text{抽出} \rightarrow \text{一般化(外的妥当性)}, \quad \text{割付} \rightarrow \text{因果比較(内的妥当性)}$$
2. 本計画で守れているものと壊れているもの
名簿からの乱数抽出は、当該入院患者への一般化には寄与します。しかしその後の群分けは希望です。新プログラムを希望する人は、もともと回復への意欲が高い、家族の協力がある、疼痛が軽い、といった特徴を持ちやすいです。処理群の歩行速度が速くなっても、プログラムの効果なのか、希望した人の背景なのかが混ざります。抽出が公平でも、割付が自己選択なら因果は歪みます。
片方では代用できない
- 良い標本(無作為抽出)+悪い割付(希望)→ 誰についての話かは明確になりやすいが、効果の比較は不公平
- 悪い標本(特定の紹介患者だけ)+良い割付(乱数)→ 参加した人の中での因果比較はしやすいが、病院全体への一般化は弱い
本問は前者です。一般化の土台はあっても、因果の土台が欠けています。
3. 無作為割付がすること/しないこと
無作為割付は、交絡因子の値を両群で必ず同じにはしません。ある回の割付では年齢が片方に偏ることもあります。しかし系統的に「意欲の高い人を処理群へ」と寄せることは避け、繰り返したときの群間差を平均的に均衡させます。希望割付はこの平均的均衡を意図的に壊します。
4. 各選択肢の検討
- 「抽出は一般化、割付は比較。希望では因果が歪み得る」→ 正しい。
- 「抽出していれば希望割付でも因果は不偏」→ 誤り。不偏なのは(条件付きで)標本抽出による母平均の推定であり、処理効果の推定ではありません。
- 「無作為割付は標本を選ぶ操作」→ 誤り。それは抽出の定義です。本計画の割付は希望であり、完了していません。
- 「一方を行えば他方は不要」→ 誤り。目的が違うため代用できません。
- 「希望割付は無作為割付と同等」→ 誤り。希望は観測・未観測の交絡を群に結び付けます。
実務では、抽出した80人を乱数で2群へ分け、希望は尊重しつつも、希望と割付が食い違う場合の扱い(コンプライアンス)を別途設計します。2級ではまず「選ぶ」と「分ける」を混ぜないことが重要です。
5. 希望を尊重しつつ比較する方法
患者の希望を無視できない現場では、まず希望を聞いたうえで、希望と割付が一致する人だけを分析する、といった妥協が取られることがあります。しかしそれは、希望した人の中での効果(コンプライアの効果)であり、入院患者全体への平均効果とは限りません。2級で押さえるべきは、希望そのものを割付規則にすると、意欲や重症度が群に結び付く、という点です。
名簿からの無作為抽出は残してよいです。一般化したい母集団が「当該病院の入院患者」なら、抽出はそれに寄与します。足りないのは、抽出の後の乱数割付です。二つの無作為化を両方書くと、計画のどこが欠けているかが見えます。
したがって、無作為抽出と無作為割付は役割が違い、希望による群分けでは因果比較が歪み得ます。