測定バイアス
この問題では、測定バイアスを、抽出の偏りや無回答と区別して識別します。測る対象の選び方ではなく、測り方そのものが系統的にずれる問題です。
1. 測定バイアスとは
観測値が、測りたい真の量から一定の向きにずれるとき、測定バイアス(系統的測定誤差)が生じます。校正切れの騒音計が常に +3 dB なら、どの地点でも表示は真値より高いです。平均を取っても、地点を無作為にしても、+3 dB は残り、工場の騒音環境は過大評価されます。
$$\text{表示値} = \text{真の音圧} + 3\,\text{dB} + \text{偶然誤差}$$
右辺の $+3$ dB がバイアス項です。偶然誤差は地点や時刻で正負にぶれ、平均で小さくなり得ます。バイアス項は平均しても消えません。
2. $n$ や無作為抽出では消えない
定点を10か所から50か所に増やせば、場所によるばらつきの平均は安定します。しかし校正ずれは全点に共通なので、50点の平均も約 +3 dB のままです。抽出を無作為にしても、「誰(どの地点)を選ぶか」は公平になりますが、「選んだ地点をどう測るか」のずれは直りません。抽出の設計と測定器の設計は別です。
測定バイアスの例
- 機器:校正切れ、ゼロ点がずれたはかり、血圧計のカフサイズ不適合
- 誘導質問:「充実した支援のおかげで休めているか」のように、良い答えを先に埋め込む
- 観察者効果:測定者が期待する方向に読み取る
本問は機器の系統的ずれです。誘導質問も測定バイアスの仲間ですが、シナリオは校正切れに固定しています。
3. 他のバイアスとの境界
無回答は、測ろうとしたが値が返ってこないことです。本問では値が返っています。選択バイアスは、静かな区画だけ測る、といった地点の選び方です。本問の主情報は機器の +3 dB であり、選び方ではありません。両方同時に起きることはありますが、設問が指摘しているのは測定側です。
4. 各選択肢の検討
- 「無回答バイアス」→ 誤り。未返信の話ではありません。
- 「地点を増やせば消える」→ 誤り。共通の加算ずれは平均で消えません。
- 「無作為に選べば真値になる」→ 誤り。抽出は測定器を校正しません。
- 「選択バイアスであり機器の問題ではない」→ 誤り。主問題は機器です。
- 「系統的に高い値を出す測定バイアス」→ 正しい。
5. 校正と再測定
対処は、校正された計器で同じ定点を測り直すことです。過去の表示から3 dBを機械的に引く補正は、ずれが本当に一定なら使えますが、校正切れの計器は周波数特性まで崩れていることがあります。補正の仮定が強いときは、再測定が安全です。
誘導的な質問文も測定バイアスです。本問は機器側ですが、共通点は「入った人・地点への測り方がずれる」ことです。誰を選ぶかの選択バイアス、返ってこない無回答とは点検箇所が違います。工場の騒音評価では、まず計器台帳の校正日を見ます。
同じ工場で「静かな区画だけ測った」なら選択バイアスが重なります。本問が与えている情報は校正切れの +3 dB なので、まず測定バイアスと診断します。計器を直さずに地点を増やしても、過大評価は残り続けます。
測定バイアスは、抽出が完璧でも残ります。川崎の工場が地点をSRSで選んでいても、計器が +3 dB なら全市(全定点)の平均は真値より高いままです。校正は抽出とは独立した品質管理であり、地点数を増やすことでは代替できません。再校正した計器での再測定が先であり、平均操作でバイアス項は消えません。
したがって、機器が系統的に高い値を出す測定バイアスです。対処は再校正と再測定であり、地点を増やすことではありません。