DAMA-DMBOK 簡易地図:用語の仕分け箱
Stage 2 — 第1章 | データマネジメント入門 推定学習時間:35〜45分 | 難易度:★★☆☆☆
この章で学ぶこと
Stage 1 では、さくら商事の 症状・ロール・ライフサイクル を押さえました。 Stage 2 からは「設計の言葉」が一気に増えます。SSOT、マスターデータ、オントロジー、リネージ、セマンティックレイヤー……。
ここで多くの人がつまずくのは、用語を暗記しようとすること です。 DAMA-DMBOK(DAMA Data Management Body of Knowledge、データマネジメントの知識体系)の 11 領域は、試験暗記用のリストではなく 「今の困りごとが、どの論点の話か」を仕分ける地図 として使います。
この章を終えると、こんなことができるようになります:
- DAMA-DMBOK の 11 領域を 暗記せず 地図として説明できる
- 新しい用語が出てきたとき、どの領域の話か当てはめられる
- 「データガバナンス(Data Governance)」が他の領域とどう関係するか説明できる
- Stage 1 のライフサイクルと DAMA 領域を対応づけられる
1. 用語の洪水:新人アナリストの 1 週目
さくら商事に入社した山田さん(データアナリスト)は、最初の週で次のメモを取っていました。
- 商品マスタが ERP と EC で違う
- Looker の
revenueが SQL と合わない- 退職者の Drive に CSV が残ってる
- 「このカラム何?」が毎日 Slack に上がる
- 返品を売上に含めるか、まだ決まってない
どれも「データの問題」ですが、同じ解決策では直りません。 品質の話、定義の話、権限の話、保存の話——論点が混ざると、会議は長くなるだけです。
鈴木さん(基盤)は山田さんにこう言いました。
「全部を一度に直そうとしない。まず どの箱に入れるか 決めよう。DAMA はその箱のラベル集だよ。」
2. 地図の見方:11 領域は暗記不要
DAMA-DMBOK 第 2 版では、データマネジメントを 11 の知識領域(Knowledge Area) に分けています。 中央にある データガバナンス が、方針・責任・優先順位を決める「ハブ」です。
| # | 領域(英語) | ざっくり何の話か | さくら商事の例 |
|---|---|---|---|
| — | データガバナンス(Data Governance) | 誰が決めるか、ルール、優先順位 | 「公式売上」のオーナー、利用規程 |
| 1 | データアーキテクチャ(Data Architecture) | 全体構造、置き場所、連携の設計 | EC → DWH → マートの流れ |
| 2 | データモデリング・設計(Data Modeling & Design) | ER、粒度、キー設計 | 注文–明細–商品の関係 |
| 3 | データストレージ・運用(Data Storage & Operations) | 保存、バックアップ、運用 | BigQuery 運用、退職者 Drive 問題 |
| 4 | データセキュリティ(Data Security) | 権限、暗号化、漏えい対策 | CS が見ていい列、委託先マスク |
| 5 | データ統合・相互運用(Data Integration & Interoperability) | 取込、API、形式の橋渡し | 広告 CSV、Shopify 連携 |
| 6 | ドキュメント・コンテンツ管理 | 非構造データ、契約 PDF 等 | CS 問い合わせ添付(本トラックでは軽く触れる) |
| 7 | 参照・マスターデータ(Reference & Master Data) | 顧客・商品など 正本 | 商品コード二重管理 |
| 8 | メタデータ管理(Metadata Management) | 定義、カタログ、来歴の管理 | 「このカラム何?」問題 |
| 9 | データ品質(Data Quality) | 正確性、完全性、一意性等 | 返品 CSV 欠損 |
| 10 | データウェアハウス・BI 管理(DW & BI Management) | 分析基盤、レポート提供 | Looker、経営会議用数字 |
次の図は、以降 Stage 2〜5 で出てくる用語の“住所録”です。 細部は各章で学び、ここでは 全体の配置 だけ掴んでください。
(Data Governance)"] R1["データ
アーキテクチャ"] R2["データ
モデリング"] R3["ストレージ
運用"] R4["データ
セキュリティ"] R5["データ
統合"] R6["参照・
マスタ"] R7["メタデータ
管理"] R8["データ
品質"] R9["DWH / BI"] R10["ドキュメント
管理"] R1 --- GOV R2 --- GOV R3 --- GOV R4 --- GOV GOV --- R5 GOV --- R6 GOV --- R7 GOV --- R8 GOV --- R9 GOV --- R10 classDef gov fill:#eff6ff,stroke:#1e3a8a,stroke-width:2px,color:#1f2937 classDef area fill:#ffffff,stroke:#2563eb,color:#1f2937 class GOV gov class R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10 area
11 個すべてを今すぐ理解する必要はありません。 大事なのは ガバナンスが中心 であることと、品質・マスタ・メタデータが 別の箱 だと分かることです。
現場メモ
「DAMA 全部やらないとダメ」という話は現場では出ません。 小さな会社ほど ガバナンス + 品質 + マスタ + メタデータ の 4 点セットから始めることが多いです。
3. 困りごとを地図に当てはめる
山田さんの 1 週目メモを、地図に当てはめてみます。
| 困りごと | 主な領域 | なぜそこか |
|---|---|---|
| 商品マスタが ERP と EC で違う | 参照・マスターデータ | 正本 と同期の問題 |
Looker の revenue が合わない |
DW & BI + メタデータ | 指標定義と参照元の問題 |
| 退職者 Drive に CSV | ストレージ・運用 + セキュリティ | 保存場所とアクセスの問題 |
| 「このカラム何?」 | メタデータ管理 | 定義・説明の不在 |
| 返品を売上に含めるか未決 | ガバナンス + モデリング | ビジネス定義 の合意不足 |
1 つの症状が 複数領域にまたがる ことも普通です。 例えば「売上が合わない」は、品質だけでなく、マスタ、メタデータ、ガバナンスが絡みます。
3.1 Stage 1 のライフサイクルとの対応
Stage 1 で学んだ ライフサイクル(生成→保存→加工→活用→廃棄)と DAMA は、直交する軸です。
| ライフサイクル段階 | よく関わる DAMA 領域 |
|---|---|
| 生成 | 統合、モデリング、品質(入力チェック) |
| 保存 | ストレージ、セキュリティ、アーキテクチャ |
| 加工 | モデリング、品質、DW & BI |
| 活用 | DW & BI、ガバナンス、セキュリティ |
| 廃棄 | ストレージ、ガバナンス(保持期間) |
ライフサイクル は「いつ」の話、DAMA 領域 は「何の論点か」の話、と覚えると整理しやすいです。
4. よく混同される 3 組
現場で特に混ざりやすいのは次の 3 組です。
| 混同しやすいペア | 違い(一言) | さくら商事の例 |
|---|---|---|
| 品質 vs メタデータ | 品質は 値が正しいか、メタデータは 何を意味するか | 返品欠損 vs status 列の定義不明 |
| マスタ vs SSOT | マスタは エンティティの正本、SSOT は 指標・レポートの正本 も含む広い概念 | 商品コード vs 経営会議用売上 |
| アーキテクチャ vs モデリング | アーキは 置き場・流れ、モデリングは 表の形・関係 | レイク/DWH vs 注文 ER 図 |
SSOT(Single Source of Truth、信頼できる唯一の参照元)は DAMA の独立領域名ではありませんが、マスタ・メタデータ・ガバナンス を横断する設計原則として Stage 2 以降で繰り返し登場します。
5. 小さな組織での使い方
さくら商事のように データ基盤が 1〜2 名 の組織では、11 領域すべてに専任はいません。 現実的な進め方は次のとおりです。
| 優先度 | 領域 | 最初の一歩 |
|---|---|---|
| 高 | ガバナンス | 指標オーナーと変更ルールを 1 つ決める |
| 高 | 品質 | 取込・公開前の最低限チェック |
| 高 | マスタ | 顧客・商品の正本を 1 箇所に |
| 高 | メタデータ | 主要指標とカラムに説明を付ける |
| 中 | DW & BI | 会議用数字の配布元を固定 |
| 中 | セキュリティ | PII 列のマスク方針 |
| 後回し可 | ドキュメント管理 | 構造化データが主なら後から |
Slack 抜粋
経営・木村:「DAMA って 11 個もあるの? 大変そう。」
基盤・鈴木:「全部同時じゃないです。今月は 公式売上の SSOT だけ。来月 商品マスタ。その次 品質チェック。」
山田:「地図があると、何を後回しにしていいか分かります。」
6. Stage 2 の読み方
Stage 2 の残り 4 章は、この地図の 右側(意味・定義・来歴) を深掘りします。
| 章 | 主な DAMA 領域 |
|---|---|
| s2-p2 ER・SSOT・マスタ | モデリング、参照・マスターデータ |
| s2-p3 オントロジー | モデリング(意味の層) |
| s2-p4 メタデータ・リネージ | メタデータ管理 |
| s2-p5 セマンティックレイヤー | DW & BI、メタデータ |
Stage 3 以降は アーキテクチャ・ストレージ(置き場所)と 品質・ガバナンス に入ります。
体系コラム:カリキュラム上の位置づけ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| Stage / 章 | Stage 2 — 第1章「DAMA-DMBOK 簡易地図」 |
| 今回の論点 | 11 領域を暗記するのではなく、困りごとを 仕分け箱 に当てはめる |
| DAMA 領域 | 全体地図(特にデータガバナンスを中心に配置) |
| ライフサイクル | 「いつ」= ライフサイクル、「何の論点か」= DAMA 領域 |
| 前章との接続 | データのライフサイクル の 5 段階に、専門用語の地図を重ねる |
| 次章への伏線 | ER・SSOT・マスターデータ — 地図の「モデリング」「参照・マスタ」箱を具体化 |
体系コラム:用語のつながり
DAMA の 11 領域は独立した箱ではなく、さくら商事の日常用語と次のようにつながります。
| 現場の言葉 | 主な DAMA 箱 | 隣接する箱 |
|---|---|---|
| 「公式売上はどこ?」 | 参照・マスターデータ、DW & BI | データガバナンス、メタデータ |
| 「この列、何?」 | メタデータ管理 | データモデリング、データ品質 |
| 「誰が直すの?」 | データガバナンス | データスチュワードシップ |
| 「古い数字が出た」 | データ品質 | データ統合、DW & BI |
鈴木さんが新人に教えるのは、「新しい用語が出たらまず箱を当てる。箱が分かれば SQL 修正か組織判断かが分かる」という 地図の使い方 だけです。11 個すべてを同時に整える必要はありません。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| DAMA の目的 | 用語の 仕分け箱。暗記より地図として使う |
| 中心 | データガバナンスが方針と責任を束ねる |
| ライフサイクルとの関係 | ライフサイクル=いつ、DAMA=何の論点 |
| 現場の始め方 | ガバナンス・品質・マスタ・メタデータから |
この章のキーメッセージ:
新しい用語が出てきたら、まず 「どの DAMA 箱に入るか」 を当てはめてください。 箱が分かれば、「SQL を直す」だけで済む問題か、定義・責任・正本 の問題かが見えてきます。
次に読む
- 前章(Stage 1): データのライフサイクル
- 次章: ER・SSOT・マスターデータ
- 関連: 誰が何を担うか — ガバナンスとロール
確認問題
問題 1
さくら商事で「Shopify の status 列が何を意味するか分からない」と Slack で毎日質問が上がっている。
DAMA 地図で 最も中心 となる領域はどれですか。
A. データ品質
B. メタデータ管理
C. データセキュリティ
D. ドキュメント・コンテンツ管理
正解: B
解説: 値が正しいか(品質)以前に、定義・説明がない 問題です。A は値の検証、C は権限、D は PDF 等の非構造データが主対象で、今回の論点から外れます。
問題 2
「返品 CSV が 2 日欠損していた」という事象を DAMA で捉えると、最も直接 関係する領域はどれですか。
A. データ品質
B. データガバナンスのみ(他領域は無関係)
C. データモデリングのみ
D. ドキュメント管理のみ
正解: A
解説: 欠損は 完全性(Completeness) の品質問題です。統合・運用・インシデント対応も絡みますが、症状の本体は品質領域です。B の「のみ」は現場では成立しません。
問題 3
経営の木村さんが「DAMA 11 領域を全部今四半期で整備しろ」と指示した。 データ基盤チームとして 最も現実的な返答 はどれですか。
A. 11 領域すべてに専任を置き、並行で完遂する
B. ガバナンス・品質・マスタ・メタデータから優先し、公式売上 SSOT 等を段階的に決める
C. DAMA は大企業向けなので、さくら商事では一切使わない
D. SQL が書ける人が増えれば、領域分けは不要になる
正解: B
解説: DAMA は 地図 であり、実装順序の指針になります。A はリソース不足で破綻しやすく、C は地図を捨てるだけ、D は Stage 1 で見た「数字は出るが信頼できない」状態を再現します。
用語メモ(この章)
| 用語 | 意味(この章での使い方) |
|---|---|
| DAMA-DMBOK | データマネジメントの知識を 11 領域に整理した参照体系 |
| 知識領域(Knowledge Area) | ガバナンス、品質、メタデータ等の論点の箱 |
| データガバナンス(Data Governance) | 方針・責任・優先順位・変更管理を束ねる中心領域 |
| SSOT | 組織が信頼する唯一の参照元。領域名ではなく横断原則 |