ガバナンスを回す:ルールを「運用」にする
Stage 5 — 第2章 | データマネジメント入門 推定学習時間:45〜55分 | 難易度:★★★☆☆
この章で学ぶこと
DAMA 地図の 中心 はデータガバナンス(Data Governance)でした。 ポリシーを PDF に書くだけでは、さくら商事の会議は変わりません。
本章では データオーナー、利用目的、保持期間、変更管理 を、回る仕組みとして扱います。
この章を終えると、こんなことができるようになります:
- ガバナンスを「会議とルールの運用」として説明できる
- データオーナーとスチュワードの 実務的分担 を説明できる
- 利用目的・保持期間の 最低限の設計 ができる
- 指標変更の 変更管理プロセス を説明できる
1. 規程はあるのに機能しない
さくら商事には 3 年前に「データ利用規程」PDF がありました。 しかし:
| 項目 | 規程 | 実態 |
|---|---|---|
| 公式売上のオーナー | 記載あり | 会議で未参照 |
| 利用目的の記録 | 必要 | 未実施 |
| 保持期間 | 3 年 | 退職者 Drive に 5 年分 |
| 変更管理 | PR 必須 | 直接本番 SQL |
経営・木村
「規程、どこにあるの? 今の売上定義変えるの誰が決めるの?」
ガバナンス = 紙 ではなく 運用 です。
2. ガバナンスの 4 本柱(入門)
| 柱 | 問い | さくら商事の最小実装 |
|---|---|---|
| 組織 | 誰が決めるか | 指標オーナー + 月次データ会議 |
| ポリシー | 何が許されるか | 利用規程 + 会議は L3 のみ |
| 標準 | どう作るか | メダリオン命名、品質ルール Q-001〜 |
| コンプライアンス | 守れているか | 権限レビュー四半期 |
3. データオーナーとスチュワード
Stage 1 で学んだロールの 運用版 です。
| 役割 | 決めること | さくら商事 |
|---|---|---|
| データオーナー | ビジネス上の正しさ、利用承認 | 佐藤(公式売上)、田中(マーケ KPI) |
| データスチュワード | 定義の日常管理、品質監視 | AE + 各部門リーダー |
| データガバナンス委員 | 優先順位、横断ルール | 木村 + 鈴木 + 法務 |
3.1 月次データ会議(30 分)
| アジェンダ | 時間 |
|---|---|
| インシデント振り返り | 10 分 |
| 指標変更提案 | 10 分 |
| 野良棚卸し進捗 | 5 分 |
| 権限・保持の例外申請 | 5 分 |
決めない会議 は続きません。1 つでも 決定事項 を残します。
4. 利用目的(Purpose Limitation)
データは 収集・利用目的 に沿って使います。
| フィールド | 例 |
|---|---|
| 申請者 | 山田 |
| データ | mart_finance 読取 |
| 目的 | 経営会議資料作成 |
| 期間 | 2026-Q2 |
| PII | 不含 |
探索分析も 「探索(非公式)」 と目的を残すと、後の監査が楽です。
5. 保持期間(Retention)
Stage 1 の 廃棄 をガバナンスで固定します。
| データ | 保持 | 根拠 |
|---|---|---|
| Bronze 生ログ | 90 日 | コスト |
| 公式マート | 7 年 | 経理 |
| CS 問い合わせ PII | 2 年 | 規程 |
| 個人 Sheets | 0 日(禁止) | SSOT |
| イベント | アクション |
|---|---|
| 退職 | アカウント停止 + 個人 storage 監査 |
| プロジェクト終了 | 委託先権限剥奪 |
6. 変更管理(Change Management)
指標・マート・権限 の変更は PR + 承認 + カタログ更新。
変更提案(Issue)
→ 影響分析(リネージ・利用者)
→ オーナー承認
→ PR マージ
→ 品質ルール再パス
→ カタログ・用語集更新
→ 利用者通知
さくら商事の「返品を売上確定前に含めない」変更は、このフローで 2026-06-01 に記録されました。
7. ガバナンス成熟度(参考)
| Lv | 状態 | さくら商事(現在) |
|---|---|---|
| 1 | 属人 SQL | 〜2025 |
| 2 | SSOT + 口頭ルール | 2026 前半 |
| 3 | オーナー + 会議 + runbook | 目標 |
| 4 | 自動ポリシー enforce | 将来 |
| 5 | 全社データ文化 | 将来 |
完璧を目指さず Lv3 から。
体系コラム:カリキュラム上の位置づけ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| Stage / 章 | Stage 5 — 第2章「ガバナンスの実践」 |
| 今回の論点 | 規程があっても機能しない——4 本柱 で回す |
| DAMA 領域 | データガバナンス、データスチュワードシップ |
| ライフサイクル | 全段階の 変更管理・保持・利用目的 |
| 前章との接続 | アクセス制御の基礎 — 権限を ポリシー で説明可能に |
| 次章への伏線 | Harness Engineering と DM — AI 時代の 外部ハーネス |
コラム:さくら商事メモ — 規程はあるのに機能しない
さくら商事には 2024 年版のデータ利用規程がありました。しかし木村さんが「規程どこ?」と聞くと、法務フォルダの PDF だけで、現場の Slack にはリンクがありませんでした。
佐藤さん(スチュワード)と鈴木さんがやったのは、規程の 4 本柱だけ を 1 枚に要約することです。(1)オーナー指名、(2)利用目的の記録、(3)保持期間、(4)変更管理。会議で公式売上定義を変えるときは、佐藤承認 + カタログ更新 + 利用者通知——この 最小フロー だけ先に回しました。
成熟度 Lv5 を目指さず Lv3(オーナー + runbook + 会議)から。ガバナンスは理想形の PDF ではなく、明日の判断が迷わない状態 です。
まとめ
| 要素 | キーメッセージ |
|---|---|
| オーナー | 決める人がいる |
| 利用目的 | なぜ見るか残す |
| 保持 | いつ消すか決める |
| 変更管理 | 定義変更はプロセス |
この章のキーメッセージ:
ガバナンスは 禁止令 ではなく、早く安全にデータを使うための交通ルール です。 会議・オーナー・変更ログが回って初めて、SSOT と品質が長持ちします。
次に読む
- 前章: 権限設計の基本
- 次章: ハーネスエンジニアリングと DM
- 関連: DAMA 地図
確認問題
問題 1
公式売上の定義変更を、鈴木さんが単独で夜間 SQL 実行した。 ガバナンス上の問題 として最も適切なのはどれですか。
A. 変更管理・オーナー承認・カタログ更新が bypass された
B. SQL が長い
C. 問題ない。DE は全部決めていい
D. 統計検定が必要
正解: A
解説: 指標変更は ビジネス判断 を含みます。技術担当の単独変更は説明責任を壊します。
問題 2
退職者の Google Drive に 3 年前の顧客 CSV が残っていた。 関連するガバナンス要素 の組み合わせとして最も適切なのはどれですか。
A. 保持期間 + 退職時アカウント/個人 storage 監査
B. CVR の定義
C. メダリオン層の色
D. ウィンドウ関数
正解: A
解説: 廃棄・保持・退職プロセス の問題です。分析技法とは無関係です。
問題 3
月次データ会議で「野良 Sheets 一覧」だけ 30 分話し、決定が 0 件だった。 改善として最も適切 なのはどれですか。
A. 会議廃止
B. 次回から Top3 野良の 移行 or 廃止 を必ず 1 件決める
C. 野良を増やす
D. 規程 PDF を 100 ページにする
正解: B
解説: ガバナンス会議は 決定事項 が成果物です。棚卸しだけでは運用に乗りません。
用語メモ(この章)
| 用語 | 意味(この章での使い方) |
|---|---|
| データガバナンス | 方針・責任・ルールを運用する仕組み |
| データオーナー | ビジネス上の正しさと利用承認の責任者 |
| 利用目的 | データを何のために使うかの限定 |
| 保持期間(Retention) | 保存期間と廃棄ルール |
| 変更管理 | 定義・スキーマ変更の承認と記録 |