確率変数・モーメント・母関数
Stage 2 — 第2章 | 統計検定準1級チートシート 推定学習時間:70〜90分 | 難易度:★★★☆☆
このページで押さえること
確率変数とモーメントは、分布表を読むための前提です。 準1級では、平均・分散をただ代入するだけでなく、母関数からモーメントを取り出す、独立和の分布を読む、共分散行列や相関の意味を説明する、という形で出てきます。
このページを終えると、こんなことができるようになります:
- 離散型と連続型で、期待値・分散・変換後の期待値を正しく書ける
- 共分散、相関、独立性の関係を混同せずに説明できる
- MGF/PGFから平均・分散を取り出せる
- 母関数を使って独立和の分布やモーメントを読める
- 歪度、尖度、変動係数を「何を測る量か」で理解できる
1. 2級ではここまで、準1級ではここが増える
2級では、期待値と分散を分布ごとに計算できれば十分な場面が多いです。 準1級では、確率変数を関数で変換したときの期待値、2変数の共分散、母関数、積率の取り出し方が問われます。
確率変数 $X$ は、標本空間 $\Omega$ の結果を実数へ写す関数です。
確率変数を使う理由は、事象そのものではなく「結果を数値化した量」の分布を扱うためです。 たとえば「成功したか」ならベルヌーイ変数、「成功回数」なら二項変数、「待ち時間」なら指数分布やガンマ分布として扱えます。
📘 前提知識:モーメントは分布の形を数字で読む部品
平均は中心、分散は広がり、歪度は左右の非対称性、尖度は裾や中心の鋭さを表します。 MGFやPGFは、これらの部品を微分で取り出せるようにした関数です。 分布名を覚えるだけでなく、どの部品を読んでいるかを意識すると計算ミスが減ります。
2. 期待値・分散・変換後の期待値
離散型で確率質量関数を $p_X(x)$ とすると、期待値は
です。 連続型で密度を $f_X(x)$ とすると、
です。
関数 $g(X)$ の期待値は、$X$ の分布で直接平均を取ります。
または
です。 ここで重要なのは、$g(X)$ の分布を先に求めなくても期待値を計算できることです。
分散は平均からの二乗距離です。
展開すると、
です。 計算問題ではこの形を使うことが多いですが、意味は「平均まわりのばらつき」です。
線形変換では、
となります。 分散で $b$ が消え、$a$ が二乗になる点は頻出です。
3. 共分散・相関・独立性
2つの確率変数 $X,Y$ の共分散は、
です。 展開すると、
です。 共分散が正なら同じ方向、負なら逆方向に動きやすいと読みます。
相関係数は共分散を標準偏差で割った量です。
単位を消して $-1$ から $1$ の範囲へ標準化します。
独立なら、
なので、
です。 ただし逆は一般に成り立ちません。 共分散0は線形な関係がないことを示すだけで、非線形な依存が残ることがあります。
代表的な反例は、$X$ が $-1$ と $1$ を同確率で取り、$Y=X^2$ とする場合です。 このとき $Y=1$ で $X$ に完全に依存していますが、
なので $Cov(X,Y)=0$ です。
4. 母関数:MGFとPGF
モーメント母関数(MGF)は、
です。 名前の通り、微分するとモーメントが出ます。 指数関数を展開すると、
なので、期待値を取って
です。 したがって、
が成り立ちます。 分散は
です。
非負整数値を取る確率変数では、確率母関数(PGF)も使います。
PGFでは、係数が確率そのものです。 また、
となります。 二項分布、幾何分布、ポアソン分布の和を扱うときに便利です。
次の図では、MGFは $t=0$、PGFは $s=1$ で微分してモーメントを読む違いを整理する。

MGFは通常のモーメント、PGFは非負整数値分布の確率係数と階乗モーメントを読む道具である。
MGFは $M_X'(0)=E[X]$, $M_X''(0)=E[X^2]$ を読む。一方、PGFは $G_X'(1)=E[X]$, $G_X''(1)=E[X(X-1)]$ を読むため、2階微分をそのまま $E[X^2]$ と解釈しない。
5. 独立和と母関数
$X$ と $Y$ が独立なら、
です。 指数法則より、
なので、独立性から期待値が分解でき、
となります。 これが「独立和の母関数は積になる」という基本事実です。
たとえば、$X_i\sim Bernoulli(p)$ が独立なら、
です。 和 $S=\sum_{i=1}^n X_i$ のMGFは、
となり、これは $Binomial(n,p)$ のMGFです。 このように、二項分布はベルヌーイ分布の独立和として出ます。
6. 歪度・尖度・変動係数
平均と分散だけでは、分布の形は決まりません。 準1級では、分布の非対称性や裾の重さを読むために、標準化モーメントが出ることがあります。
歪度は、標準化した3次中心モーメントです。
右に長い裾を持つ分布では正、左に長い裾を持つ分布では負になりやすいです。
尖度は、標準化した4次中心モーメントです。
正規分布では $\gamma_2=3$ です。 そのため、過剰尖度として $\gamma_2-3$ を使うこともあります。
変動係数は、平均に対する標準偏差の相対的な大きさです。
単位の違うデータの相対的なばらつきを比較するために使います。 ただし、平均が0に近い場合は不安定になるので注意します。
7. 問題文トリガー辞書
| 問題文の表現 | 判断する論点 | 使う公式・手法 | 確認条件 | 典型ミス |
|---|---|---|---|---|
| 「期待値を求めよ」 | 分布に対する平均 | $E[g(X)]$ | 変換後の分布が必要か | $g(E[X])$ としてしまう |
| 「分散を求めよ」 | 2次モーメント | $E[X^2]-E[X]^2$ | 平均を先に求める | $E[X^2]$ だけで終える |
| 「相関係数」 | 共分散の標準化 | $Cov(X,Y)/(\sigma_X\sigma_Y)$ | 分散が正か | 共分散と相関を同一視する |
| 「独立なら」 | 期待値の分解 | $E[XY]=E[X]E[Y]$ | 独立性が明示されているか | 無相関から独立を結論する |
| 「MGF」 | 積率の取り出し | $M_X'(0),M_X''(0)$ | 0の近傍で存在するか | PGFと代入点を混同する |
| 「PGF」 | 非負整数値分布 | $G_X(s)=E[s^X]$ | $X$ が整数値か | $G'(0)$ で平均を取る |
| 「独立和」 | 母関数の積 | $M_{X+Y}=M_XM_Y$ | 独立か | 相関0だけで積にする |
8. 典型ミス・ひっかけ
| ミス | なぜ危ないか | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| $E[g(X)]$ を $g(E[X])$ にする | 非線形変換では一般に一致しない | 期待値は分布全体で平均する |
| 分散で $a$ ではなく $a^2$ を忘れる | 単位とばらつきの変換を誤る | $Var(aX+b)=a^2Var(X)$ を確認する |
| 共分散0を独立と読む | 非線形依存を見落とす | 独立なら無相関、逆は一般に不可 |
| MGFとPGFの微分点を混同する | 平均・分散がずれる | MGFは0、PGFは1で微分 |
| 母関数の積を独立でない和に使う | 分布を誤判定する | 独立性の記述を確認する |
9. ここで1問
このページの確認問題
- 確率と確率分布の演習へ
- まず解く: モーメント母関数、期待値・分散、共分散と相関
- 目標: MGFから平均・分散を1回で取り出せる
10. 解法テンプレ
確率変数・母関数の問題では、次の順で処理します。
- $X$ は離散型、連続型、非負整数値のどれかを確認する。
- 求める量が期待値、分散、共分散、相関、母関数のどれかを決める。
- 変換 $g(X)$ があるなら、$E[g(X)]$ を直接書く。
- 分散は $E[X^2]-E[X]^2$ で計算する。
- MGFなら0で微分、PGFなら1で微分する。
- 独立和なら母関数を積にする。独立でないなら積にしない。
11. 関連教材
関連教材(青の統計学)
12. 次に読むページ
次は、変数変換、大数の法則、中心極限定理、デルタ法を扱います。 母関数で見た「和の分布」や「モーメント」は、極限定理の理解につながります。