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標本分布:カイ二乗・t・F

Stage 2 — 第6章 | 統計検定準1級チートシート 推定学習時間:90〜110分 | 難易度:★★★★☆


このページで押さえること

標本分布は、推定・検定の参照分布を作る土台です。 カイ二乗、t、Fを別々に暗記するより、正規標本の標本平均方向と残差方向の分解として理解すると安定します。

このページを終えると、こんなことができるようになります:

  • 標本平均と標本分散の分布を説明できる
  • カイ二乗分布、t分布、F分布の生成関係を説明できる
  • 母分散既知/未知で標準正規とt分布を使い分けられる
  • ANOVAや分散比検定でF分布が出る理由を説明できる
  • 非心分布が対立仮説下の分布として出ることを理解できる

1. 正規標本と標本平均

$X_1,\dots,X_n$ が独立に

\[ X_i\sim N(\mu,\sigma^2) \]

に従うとします。 標本平均は、

\[ \bar{X}=\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}X_i \]

です。 正規分布の線形結合は正規分布なので、

\[ \bar{X}\sim N\left(\mu,\frac{\sigma^2}{n}\right) \]

です。 したがって、母分散 $\sigma^2$ が既知なら、

\[ Z=\frac{\sqrt{n}(\bar{X}-\mu)}{\sigma}\sim N(0,1) \]

を使えます。

ただし現実の検定では、母分散が未知であることが多いです。 その場合、$\sigma$ を標本標準偏差 $S$ で置き換えるため、標準正規ではなくt分布が出ます。

📘 前提知識:自由度は「自由に動ける残りの次元」

標本平均を推定すると、残差の和は0に固定されます。 そのため、残差平方和には $n$ 個ではなく $n-1$ 個ぶんの自由な情報しか残りません。 t分布、カイ二乗分布、F分布の自由度は、この制約の数を反映しています。


2. 標本分散とカイ二乗分布

不偏分散を

\[ S^2=\frac{1}{n-1}\sum_{i=1}^{n}(X_i-\bar{X})^2 \]

とします。 正規標本では、

\[ \frac{(n-1)S^2}{\sigma^2}\sim \chi^2_{n-1} \]

です。

自由度が $n-1$ になる理由は、残差 $X_i-\bar{X}$ が

\[ \sum_{i=1}^{n}(X_i-\bar{X})=0 \]

という制約を1つ持つからです。 標本平均を推定した分だけ、残差方向の自由度が1つ減ります。

カイ二乗分布は、独立な標準正規変数の二乗和です。

\[ Z_1^2+\cdots+Z_\nu^2\sim \chi^2_{\nu} \]

この「二乗和」という構造が、分散推定、適合度検定、独立性検定、ANOVAの平方和へつながります。


3. t分布

標準正規変数 $Z\sim N(0,1)$ と、独立なカイ二乗変数 $U\sim\chi^2_\nu$ があるとき、

\[ T=\frac{Z}{\sqrt{U/\nu}} \]

は自由度 $\nu$ のt分布に従います。

\[ T\sim t_\nu \]

正規標本では、

\[ Z=\frac{\sqrt{n}(\bar{X}-\mu)}{\sigma} \]

\[ U=\frac{(n-1)S^2}{\sigma^2} \]

が独立になります。 したがって、

\[ \frac{\bar{X}-\mu}{S/\sqrt{n}} = \frac{Z}{\sqrt{U/(n-1)}} \sim t_{n-1} \]

です。

t分布は、母分散未知の平均に関する推定・検定で使います。 自由度が大きくなると、t分布は標準正規分布に近づきます。


4. F分布

独立なカイ二乗変数

\[ U_1\sim\chi^2_{\nu_1},\qquad U_2\sim\chi^2_{\nu_2} \]

があるとき、

\[ F=\frac{U_1/\nu_1}{U_2/\nu_2} \]

はF分布に従います。

\[ F\sim F_{\nu_1,\nu_2} \]

F分布は、分散比や平方和比で出ます。 たとえば、2つの独立な正規母集団の分散が等しいかを調べるとき、

\[ \frac{S_1^2}{S_2^2} \]

は自由度に応じたF分布で評価します。

ANOVAでも、要因平方和を自由度で割った平均平方と、誤差平方和を自由度で割った平均平方の比を使います。

\[ F=\frac{MS_{\text{factor}}}{MS_{\text{error}}} \]

これは、信号に対応する平方和と誤差に対応する平方和の比として読めます。


5. 正規標本の幾何:なぜ独立になるか

正規標本ベクトルを

\[ X=(X_1,\dots,X_n)^\top \]

と見ます。 標本平均は、ベクトル $(1,\dots,1)$ の方向への射影です。 残差ベクトル

\[ X-\bar{X}\mathbf{1} \]

は、その方向に直交します。

正規分布では、直交する線形変換成分は独立になります。 そのため、標本平均と残差平方和が独立になります。 この事実が、t分布の導出で必要な

\[ Z\perp U \]

を支えています。

この直交分解は、ANOVAの平方和分解にもつながります。 全平方和を、説明される平方和と残差平方和に分ける考え方は同じです。

正規標本の標本平均方向と残差方向の直交分解からカイ二乗分布、t分布、F分布が生成される関係図


6. 非心分布の位置づけ

帰無仮説が正しいときの検定統計量は、中心t分布、中心F分布、中心カイ二乗分布に従うことが多いです。 一方、対立仮説の下では、分布の中心がずれて非心分布になります。

たとえば、$Z\sim N(\delta,1)$ のとき、

\[ Z^2 \]

は非心カイ二乗分布に従います。 この $\delta$ が非心性母数です。 非心性母数は、効果量や標本サイズに依存し、検出力計算で重要になります。

準1級では、非心分布の密度を細かく覚えるより、「対立仮説下の検定統計量の分布」「検出力とつながる」という位置づけを押さえるのが重要です。


7. 問題文トリガー辞書

問題文の表現 判断する分布 使う統計量 確認条件 典型ミス
「母分散既知の平均」 標準正規 $\sqrt{n}(\bar{X}-\mu)/\sigma$ $\sigma$ 既知 t分布にする
「母分散未知の平均」 t分布 $(\bar{X}-\mu)/(S/\sqrt n)$ 正規標本 z分布にする
「分散の信頼区間」 カイ二乗 $(n-1)S^2/\sigma^2$ 正規性 自由度を$n$にする
「分散比」 F分布 $S_1^2/S_2^2$ 独立正規標本 分子分母を逆にする
「ANOVA表」 F分布 $MS_{\text{factor}}/MS_{\text{error}}$ 平方和と自由度 平均平方を使わない
「検出力」 非心分布 非心t/F/カイ二乗 対立仮説下 帰無分布だけで考える

8. 典型ミス・ひっかけ

ミス なぜ危ないか 防ぎ方
母分散未知なのに標準正規を使う 標準誤差を推定している $S$ を使ったらt分布
カイ二乗の自由度を $n$ にする 平均推定で1自由度失う 分散なら $n-1$
F分布の分子・分母自由度を逆にする p値が変わる 統計量の分子から順に書く
t、カイ二乗、Fを別々に暗記する 条件を忘れやすい 正規標本の直交分解でつなぐ
非心分布を帰無分布として使う 検定の基準がずれる 非心分布は対立仮説・検出力側

9. ここで1問

このページの確認問題


10. 解法テンプレ

標本分布の問題では、次の順で処理します。

  1. 対象が平均、分散、分散比、平方和比のどれかを確認する。
  2. 母分散が既知か未知かを確認する。
  3. 正規標本の仮定があるかを見る。
  4. 標準化した統計量を書く。
  5. 推定した母数の数だけ自由度が減ることを確認する。
  6. 分子自由度、分母自由度を統計量の順に書く。
  7. 帰無分布か対立仮説下の分布かを分ける。

11. 関連教材

関連教材(青の統計学)


12. 次に読むページ

次は、推定量、十分統計量、順序統計量、最尤法、モーメント法を扱います。 標本分布で作った参照分布は、推定理論と検定理論の中で何度も使います。