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標本調査・有限母集団

Stage 4 — 第5章 | 統計検定準1級チートシート 推定学習時間:80〜100分 | 難易度:★★★★☆


このページで押さえること

標本調査では、母集団から一部を抽出して母平均や母比率を推定します。 準1級では、抽出法の名前だけでなく、推定量、分散、有限母集団修正、層化や集落抽出の効果を理解する必要があります。

このページを終えると、こんなことができるようになります:

  • 有限母集団での平均・合計・比率の推定量を説明できる
  • 有限母集団修正がいつ出るかを判断できる
  • 単純無作為抽出、層化抽出、集落抽出、多段抽出、系統抽出を区別できる
  • 層化抽出で分散が下がる理由を説明できる
  • 集落抽出で設計効果が大きくなる理由を説明できる

2級ではここまで、準1級ではここが増える

2級では、標本は「母集団から無作為に取る」という前提で、標本平均から母平均を推定し、$\sigma/\sqrt{n}$ で標準誤差を測るところまでが中心です。母集団は事実上無限大として扱います。

準1級では、母集団が有限であることと、抽出の仕方そのものが精度に効くことが加わります。

観点 2級でのレベル 準1級で増える点
母集団 無限母集団を仮定 有限母集団(サイズ $N$)と有限母集団修正
標準誤差 $\sigma/\sqrt{n}$ $\sqrt{1-n/N}\cdot S_U/\sqrt{n}$ など設計依存
抽出法 単純無作為のみ 層化・集落・多段・系統と設計効果

つまり準1級では「何人調べたか」だけでなく、どう選んだかで分散が変わることを式で説明できる必要があります。差がつくのは、有限母集団修正をいつ入れるかの判断と、層化(精度向上)と集落(コスト削減)を取り違えない注意です。


1. 有限母集団の記法

母集団サイズを $N$、母集団の値を

\[ Y_1,\dots,Y_N \]

とします。 母平均は、

\[ \bar Y_U=\frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N}Y_i \]

母合計は、

\[ Y_U=\sum_{i=1}^{N}Y_i=N\bar Y_U \]

です。

標本サイズ $n$ の標本平均を

\[ \bar y=\frac{1}{n}\sum_{i\in s}Y_i \]

とします。 単純無作為抽出では、

\[ E[\bar y]=\bar Y_U \]

なので、標本平均は母平均の不偏推定量です。

📘 前提知識:抽出デザインは標準誤差を変える

同じ人数を調べても、母集団からどう選ぶかで推定の精度は変わります。 層化抽出は層内を均質にできると精度が上がり、集落抽出はコストを下げやすい一方で相関により精度が落ちることがあります。 標本平均の式だけでなく、抽出方法まで含めて読むのが標本調査です。


2. 有限母集団修正

非復元の単純無作為抽出では、標本平均の分散は

\[ Var(\bar y)=\left(1-\frac{n}{N}\right)\frac{S_U^2}{n} \]

です。 ここで

\[ S_U^2=\frac{1}{N-1}\sum_{i=1}^{N}(Y_i-\bar Y_U)^2 \]

です。

係数

\[ 1-\frac{n}{N} \]

を有限母集団修正(FPC)と呼びます。 この係数は「まだ観測していない母集団の割合」とも読め、$0$ から $1$ の値を取り、無限母集団の分散 $S_U^2/n$ をその分だけ縮めます。 抽出率 $n/N$ が大きいほど、非復元抽出では不確実性が減ります。 母集団の大部分を観測しているからです。

復元抽出や、$N$ が非常に大きく $n/N$ が小さい場合には、この補正はほぼ1です。

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次の図では、同じ標本サイズでも、どのように抽出するかで推定量の分散が変わることを見る。

単純無作為抽出、層化抽出、集落抽出で標本平均の分散がどう変わるかを示す比較図

層内を均質にすると分散は下がり、集落内相関が高いと分散は上がりやすい。

層化は層内ばらつきを小さくできると精度が上がる。一方、集落抽出はコストを下げやすいが、集落内で似た個体が多いと有効な情報量は増えにくい。

次の図では、標本割合 $n/N$ が大きくなるほど有限母集団修正が強く効くことを見る。

標本割合n/Nが大きいほど有限母集団修正が分散を小さくすることを示す曲線図

有限母集団修正は、非復元抽出で「すでに観測した個体は再び出てこない」ため、残りの不確実性が減る効果である。

分散には、おおよそ $1-n/N$ の補正が入る。$n/N$ が小さいときは補正がほぼ1なので、無限母集団近似で十分なことが多い。問題文で「有限母集団」「非復元」「抽出率が大きい」を見たら、補正を疑う。


3. 母合計と母比率の推定

母合計の推定量は、

\[ \hat Y_U=N\bar y \]

です。 分散は、

\[ Var(\hat Y_U)=N^2Var(\bar y) \]

です。

二値変数 $Y_i\in\{0,1\}$ なら、母平均は母比率です。

\[ P_U=\bar Y_U \]

標本比率

\[ \hat P=\bar y \]

で推定できます。 有限母集団では、比率推定でも抽出率が大きければ有限母集団修正が効きます。


4. 層化抽出

📘 前提知識:層化は「ばらつきの源を先に切り分ける」発想

全体をひとまとめに抽出すると、層の違い(例:年代・地域)が丸ごと誤差に混ざります。 あらかじめ似た者同士を層に分け、各層から取って重み付けで合算すると、層間の差は推定式の中で固定され、誤差には層内のばらつきしか残りません。 だから「層内が均質で層間の差が大きい」ほど、層化は単純無作為抽出より精度を上げます。

母集団を互いに重ならない層に分けます。 層 $h$ のサイズを $N_h$、標本サイズを $n_h$、層平均を $\bar y_h$ とします。 母平均の推定量は、

\[ \bar y_{st}=\sum_{h=1}^{H}W_h\bar y_h \]

です。 ここで

\[ W_h=\frac{N_h}{N} \]

です。

層内が均質で、層間の違いが大きいほど、層化抽出は単純無作為抽出より分散を下げます。 各層から必ず標本を取れるため、小さいが重要な層を確保できる利点もあります。

比例配分では、

\[ n_h=nW_h \]

とします。 ネイマン配分では、層内標準偏差 $S_h$ を考慮して

\[ n_h\propto N_hS_h \]

とします。 ばらつきが大きい層に多く配分します。


5. 集落抽出

集落抽出では、個体ではなく集落を抽出します。 たとえば学校、地域、事業所などを集落として選び、その中の個体を調査します。

集落内の個体が似ている場合、同じ集落から多く観測しても新しい情報は増えにくくなります。 そのため、単純無作為抽出より分散が大きくなることがあります。

設計効果は、複雑な抽出デザインの分散が単純無作為抽出の分散に比べて何倍かを表します。

\[ DEFF=\frac{Var_{\text{design}}(\hat\theta)} {Var_{\text{SRS}}(\hat\theta)} \]

集落内相関が高いと、設計効果は大きくなり、有効標本サイズは小さくなります。


6. 多段抽出

多段抽出は、複数段階で抽出する方法です。 たとえば、まず市区町村を抽出し、次に世帯を抽出し、最後に個人を抽出します。

多段抽出は調査コストを下げやすい一方、分散推定は複雑になります。 どの段階でランダム化したか、抽出確率が等しいか、重み付けが必要かを確認します。

抽出確率が個体で異なる場合、単純な平均では偏ることがあります。 その場合、抽出確率の逆数を重みとして使う考え方が出ます。


7. 系統抽出

系統抽出では、母集団リストから一定間隔で標本を取ります。 たとえば、無作為に開始点を選び、その後は $k$ 個おきに抽出します。

実施が簡単で、リスト全体に標本を散らせる利点があります。 ただし、リストに周期性があり、その周期が抽出間隔と重なると偏りが生じます。

系統抽出では、リストの並び順が重要です。 無作為性が開始点だけにある場合、分散評価にも注意が必要です。


8. 抽出法の比較

抽出法 何をするか 強み 注意点
単純無作為抽出 個体を等確率抽出 理論が単純 リスト全体が必要
層化抽出 層ごとに抽出 精度向上・層確保 層情報が必要
集落抽出 集落を抽出 コスト削減 集落内相関で分散増
多段抽出 段階的に抽出 大規模調査向き 重み・分散推定が複雑
系統抽出 一定間隔で抽出 実施が簡単 周期性に弱い

9. 小さな計算例:有限母集団修正の効き方

非復元の単純無作為抽出で、有限母集団修正がどれだけ標準誤差を縮めるかを数値で確認します。 母集団サイズ $N=1000$、標本サイズ $n=100$、母集団の分散 $S_U^2=25$ とします。

まず無限母集団とみなしたときの標本平均の分散は、

\[ \frac{S_U^2}{n}=\frac{25}{100}=0.25 \]

です。有限母集団修正は、

\[ 1-\frac{n}{N}=1-\frac{100}{1000}=0.9 \]

なので、非復元抽出での分散は、

\[ Var(\bar y)=\left(1-\frac{n}{N}\right)\frac{S_U^2}{n}=0.9\times 0.25=0.225 \]

となります。標準誤差で比べると $\sqrt{0.25}=0.5$ に対し $\sqrt{0.225}\approx0.474$ で、約5%小さくなります。

無限母集団近似 有限母集団修正あり
分散 $Var(\bar y)$ 0.25 0.225
標準誤差 0.5 約0.474

抽出率 $n/N=0.1$ では補正の効果はこの程度です。 抽出率が小さいうちは無限母集団近似でほぼ十分で、$n/N$ が大きくなって初めて修正が無視できなくなる、という感覚をこの例で固めます。


10. 問題文トリガー辞書

問題文の表現 選ぶ抽出法・論点 見る式 典型ミス
「有限母集団」 非復元抽出 $1-n/N$ 無限母集団の式だけ使う
「層ごとに」 層化抽出 $\sum W_h\bar y_h$ 単純平均を取る
「層内のばらつき」 ネイマン配分 $n_h\propto N_hS_h$ 比例配分と混同
「学校・地域を選ぶ」 集落抽出 DEFF 層化抽出と混同
「段階的に選ぶ」 多段抽出 抽出確率 重みを無視
「一定間隔」 系統抽出 開始点と間隔 周期性を無視

11. 典型ミス・ひっかけ

ミス なぜ危ないか 防ぎ方
層化抽出と集落抽出を混同する 層化は各層から取る、集落は集落ごと取る 抽出単位を見る
有限母集団修正を常に入れる 復元抽出や低抽出率では不要に近い 非復元か抽出率を見る
層平均を単純平均する 層サイズが違うと偏る $W_h=N_h/N$ で重み付け
集落抽出を精度向上法と考える 主目的はコスト削減の場合が多い 集落内相関を見る
系統抽出でリスト周期性を見ない 偏った標本になる 並び順を確認

12. 解法テンプレ

標本調査の問題は、次の順で処理します。

  1. 推定したい量を確認する(母平均・母合計・母比率のどれか)。
  2. 抽出法を特定する(単純無作為・層化・集落・多段・系統)。
  3. 復元か非復元か、抽出率 $n/N$ は大きいかを見て、有限母集団修正の要否を判断する。
  4. 推定量の式を立てる(層化なら $\bar y_{st}=\sum W_h\bar y_h$ など、重みを忘れない)。
  5. 分散の式に設計(FPC・層・集落内相関)を反映させる。
  6. 集落・多段では設計効果 $DEFF$ で有効標本サイズが減ることを確認する。

13. ここで1問

抽出デザインと分散の関係を確認したら、演習で「設計が変わると推定量と分散がどう動くか」を練習します。

このページの確認問題

  • 統計学応用 標本調査
  • まず解く: 有限母集団修正、層化抽出、集落抽出、多段抽出
  • 目標: 抽出デザインから推定量と分散の変化を説明できる

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14. 次に読むページ

次は、Stage5として主成分分析、因子分析、SEM、パス解析を扱います。 回帰・ANOVAで見た線形代数の考え方を、多変量解析へ広げます。