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平均・比率の検定:1標本・2標本・対応あり/なし・ABテスト

Stage 2 — 第11章 | 統計検定2級チートシート 推定学習時間:70〜85分 | 難易度:★★★★☆


この章で学ぶこと

統計検定2級で頻出するのが、母平均と母比率に関する検定です。1標本か2標本か、対応があるかないか、母分散が既知か未知か、等分散を仮定するかどうかで、使う検定統計量が変わります。

この章では、公式を個別に覚えるのではなく、「何を比較しているか」「分母の標準誤差は何か」「どの分布を参照するか」で整理します。

この章を終えると、こんなことができるようになります:

  • 1標本の母平均検定で、z検定とt検定を使い分けられる
  • 2標本平均差の検定で、対応あり・対応なしを区別できる
  • 等分散仮定ありの2標本t検定でプール分散を使える
  • Welch型の考え方を補足として説明できる
  • 母比率と母比率の差の検定を、二項分布の正規近似として理解できる

1. 平均・比率の検定を選ぶ軸

最初に、検定選択の軸を整理します。

観点 選択肢
対象 平均 / 比率
標本数 1標本 / 2標本
2標本の関係 対応あり / 対応なし
分散 既知 / 未知
2標本分散 等分散を仮定 / 仮定しない
対立仮説 片側 / 両側

問題文を読んだら、いきなり公式に飛びつかず、この表のどこに該当するかを確認します。


2. 1標本の母平均検定

2.1 母分散が既知の場合

母平均が基準値 $\mu_0$ と等しいかを検定します。

\[ H_0:\mu=\mu_0 \]

母分散 $\sigma^2$ が既知なら、検定統計量は、

\[ Z=\frac{\bar{X}-\mu_0}{\sigma/\sqrt{n}} \]

です。帰無仮説のもとで、

\[ Z\sim N(0,1) \]

となります。

なぜこの式になるのか

検定統計量は「観測された差」を「その差がどれくらい自然に揺れるか」で割ったものです。1標本平均では、観測された差は $\bar{X}-\mu_0$ です。

母分散が既知なら、標本平均の標準誤差は $\sigma/\sqrt{n}$ なので、

\[ Z=\frac{\bar{X}-\mu_0}{\sigma/\sqrt{n}} \]

になります。分母は個々のデータの標準偏差ではなく、標本平均の標準誤差です。

2.2 母分散が未知の場合:1標本t検定

母分散が未知の場合は、標本標準偏差 $S$ を使います。

\[ T=\frac{\bar{X}-\mu_0}{S/\sqrt{n}} \]

帰無仮説のもとで、

\[ T\sim t_{n-1} \]

です。

母分散が未知なのに標準正規分布を使わない理由は、$S$ による分散推定の不確実性があるためです。

$S$ を使うだけでは終わらない

母分散が未知なら $\sigma$ の代わりに $S$ を使います。ただし、$S$ 自体も標本から計算したランダムな値です。そのため、分母にも不確実性が入り、標準正規分布ではなくt分布を参照します。

この違いを理解しておくと、「母分散既知なら $Z$、未知なら $T$」を単なる暗記ではなく、分母の不確実性の違いとして整理できます。

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3. 2標本平均差の検定:対応なし

2つの独立した母集団の平均に差があるかを調べます。例えば、A群とB群で平均点が異なるかを検定する場面です。

帰無仮説は、

\[ H_0:\mu_1-\mu_2=0 \]

です。

3.1 等分散を仮定する場合

2つの母分散が等しいと仮定できる場合、プールされた標本分散を使います。

\[ S_p^2=\frac{(n_1-1)S_1^2+(n_2-1)S_2^2}{n_1+n_2-2} \]

検定統計量は、

\[ T=\frac{\bar{X}_1-\bar{X}_2}{S_p\sqrt{\frac{1}{n_1}+\frac{1}{n_2}}} \]

です。帰無仮説のもとで、

\[ T\sim t_{n_1+n_2-2} \]

となります。

分母は「2つの標本平均の差の標準誤差」です。差を検定しているので、標準誤差も差に対応した形になります。

プール分散は何をしているのか

等分散を仮定する場合、2つの母集団は同じ分散を持つと考えます。そのため、2つの標本分散を別々に扱うのではなく、サンプルサイズと自由度で重み付けして1つの分散推定量にまとめます。

これがプール分散です。単純平均ではなく、$(n_1-1)$ と $(n_2-1)$ で重み付けするのは、それぞれの標本分散が持つ自由度を反映するためです。

3.2 等分散を仮定しない場合:Welch型

等分散を仮定しない場合は、各群の分散を別々に使います。

\[ T=\frac{\bar{X}_1-\bar{X}_2}{\sqrt{\frac{S_1^2}{n_1}+\frac{S_2^2}{n_2}}} \]

この統計量は、近似的にt分布を使って判断します。自由度はWelch-Satterthwaiteの近似で計算します。

\[ \nu=\frac{\left(\frac{S_1^2}{n_1}+\frac{S_2^2}{n_2}\right)^2}{\frac{(S_1^2/n_1)^2}{n_1-1}+\frac{(S_2^2/n_2)^2}{n_2-1}} \]

統計検定2級では、Welchの自由度を完全に暗記するより、「等分散を仮定しない場合はプール分散を使わない」と理解することが重要です。

Welch型の直感

等分散を仮定しない場合、2つの群のばらつきは別物として扱います。そのため、平均差の標準誤差は

\[ \sqrt{\frac{S_1^2}{n_1}+\frac{S_2^2}{n_2}} \]

のように、各群の不確実性を別々に足し合わせます。試験では、等分散ありならプール分散、等分散なしなら別々の分散、という分岐をまず押さえましょう。

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4. 2標本平均差の検定:対応あり

対応ありのデータでは、同じ対象を前後で測る、またはペアになった対象を比較します。

例:

  • 同じ人の研修前後のテスト点数
  • 同じ店舗の施策前後の売上
  • 双子やマッチングされたペアの比較

対応ありの場合は、各ペアの差を取って、差の平均が0かどうかを1標本t検定します。

差を、

\[ D_i=X_i-Y_i \]

と置きます。帰無仮説は、

\[ H_0:\mu_D=0 \]

です。検定統計量は、

\[ T=\frac{\bar{D}}{S_D/\sqrt{n}} \]

で、自由度は $n-1$ です。

対応ありを対応なしとして扱うと、ペア内の情報を捨ててしまい、検出力が落ちる場合があります。


5. 母比率の検定

母比率 $p$ が基準値 $p_0$ と等しいかを検定します。

\[ H_0:p=p_0 \]

標本比率を、

\[ \hat{p}=\frac{X}{n} \]

とすると、検定統計量は、

\[ Z=\frac{\hat{p}-p_0}{\sqrt{p_0(1-p_0)/n}} \]

です。

帰無仮説のもとで、近似的に標準正規分布に従います。

\[ Z\approx N(0,1) \]

ここで分母に $\hat{p}$ ではなく $p_0$ を使う点に注意してください。検定では、帰無仮説が正しいと仮定して標準誤差を計算するためです。

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6. 母比率の差の検定

2つの母比率に差があるかを検定します。ABテストで、AパターンとBパターンのクリック率やCVRを比較する場面が典型例です。

帰無仮説は、

\[ H_0:p_1-p_2=0 \]

です。

標本比率を、

\[ \hat{p}_1=\frac{X_1}{n_1},\quad \hat{p}_2=\frac{X_2}{n_2} \]

とします。

帰無仮説のもとでは $p_1=p_2$ と仮定するため、プールした比率を使います。

\[ \hat{p}=\frac{X_1+X_2}{n_1+n_2} \]

検定統計量は、

\[ Z=\frac{\hat{p}_1-\hat{p}_2}{\sqrt{\hat{p}(1-\hat{p})\left(\frac{1}{n_1}+\frac{1}{n_2}\right)}} \]

です。

ABテストでは、この式が実務上もよく使われます。ただし、統計的に有意でも、効果量や事業インパクトが小さい場合は、意思決定として採用すべきとは限りません。

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7. 二項分布の正規近似との関係

母比率の検定では、成功数 $X$ が二項分布に従うことを背景にしています。

\[ X\sim B(n,p) \]

二項分布の期待値と分散は、

\[ E[X]=np \]
\[ Var(X)=np(1-p) \]

です。標本比率 $\hat{p}=X/n$ の分散は、

\[ Var(\hat{p})=\frac{p(1-p)}{n} \]

となります。

標本サイズが十分大きいと、中心極限定理により標本比率は近似的に正規分布に従います。このため、母比率の検定では標準正規分布を参照できます。

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8. 検定選択のまとめ

場面 検定統計量 参照分布
1標本平均、母分散既知 $(\bar{X}-\mu_0)/(\sigma/\sqrt{n})$ 標準正規分布
1標本平均、母分散未知 $(\bar{X}-\mu_0)/(S/\sqrt{n})$ t分布
2標本平均差、等分散 $(\bar{X}_1-\bar{X}_2)/(S_p\sqrt{1/n_1+1/n_2})$ t分布
2標本平均差、非等分散 $(\bar{X}_1-\bar{X}_2)/\sqrt{S_1^2/n_1+S_2^2/n_2}$ 近似t分布
対応あり平均差 $\bar{D}/(S_D/\sqrt{n})$ t分布
1標本比率 $(\hat{p}-p_0)/\sqrt{p_0(1-p_0)/n}$ 標準正規分布近似
2標本比率差 $Z$ 統計量 標準正規分布近似

9. 試験で問われやすいポイント

  • 母分散未知の母平均検定では、基本的にt分布を使う
  • 等分散を仮定する2標本検定では、プール分散 $S_p^2$ を使う
  • 対応ありでは、2群を別々に扱わず、差 $D_i$ の1標本検定にする
  • 母比率の検定では、帰無仮説の $p_0$ を標準誤差に使う
  • 母比率の差の検定では、帰無仮説のもとでプール比率を使う
  • 片側・両側は、問題文の対立仮説から判断する

よくあるひっかけ: 2標本のデータが「同じ人の前後比較」なのに、対応なしの2標本t検定を使ってしまうミスがあります。対応の有無は、検定統計量そのものを変える重要条件です。


10. 次の章への接続

この章では、平均と比率の検定を扱いました。次の章では、母分散の検定、適合度検定、独立性検定を扱います。いずれもカイ二乗分布が中心になりますが、目的はそれぞれ異なるので、使い分けを意識しましょう。

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この章のあとに解きたい演習

本文を読んだら、次の問題で「公式を選ぶ」「条件を読む」「計算する」練習に移りましょう。