標本分布と中心極限定理:標準誤差からt分布・カイ二乗分布・F分布へ
Stage 2 — 第8章 | 統計検定2級チートシート 推定学習時間:65〜80分 | 難易度:★★★★☆
この章で学ぶこと
推定や検定では、1つの標本から母集団について判断します。その判断を支えているのが、標本分布です。
標本分布とは、「標本平均や標本分散のような統計量を、標本を取り直すたびに計算したらどう分布するか」を表す考え方です。実際には何度も標本を取り直せなくても、この分布を仮定することで、信頼区間やp値を計算できます。
この章を終えると、こんなことができるようになります:
- 標本分布と元データの分布を区別できる
- 標本平均の期待値・分散・標準誤差を説明できる
- 大数の法則と中心極限定理の違いを整理できる
- 母分散既知なら標準正規分布、未知ならt分布を使う理由を説明できる
- カイ二乗分布とF分布が分散推定・分散比に出てくる理由を理解できる
1. 標本分布とは何か
母集団からサイズ $n$ の標本を抽出し、標本平均 $\bar{X}$ を計算するとします。同じ母集団から標本を取り直せば、標本平均の値は少しずつ変わります。
この「標本平均という統計量のばらつき」を表す分布が、標本平均の標本分布です。
ここで混同しやすいものを整理します。
| 対象 | 意味 |
|---|---|
| 母集団分布 | 個々のデータ $X$ の分布 |
| 標本分布 | 統計量 $\bar{X}$ や $S^2$ の分布 |
| 観測された標本 | 実際に手元にある1回分のデータ |
推定・検定で扱うのは、多くの場合「観測値そのものの分布」ではなく「統計量の分布」です。
2. 標本平均の期待値と分散
$X_1,X_2,\ldots,X_n$ が互いに独立で同じ分布に従い、
とします。標本平均は、
です。
期待値は、
となります。つまり、標本平均は母平均の不偏推定量です。
分散は、独立性を使って、
となります。
標本サイズ $n$ が大きくなるほど、標本平均のばらつきは小さくなります。これが、サンプルサイズを増やすと推定が安定する理由です。
式を分解して理解する
標本平均の期待値は、期待値の線形性から導けます。
分散では、$1/n$ が2乗で効きます。また、独立なら分散は足し算できます。
この2つの式が、信頼区間や検定統計量の分母に出てくる標準誤差の出発点です。
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3. 標準誤差
標本平均の標準偏差を、標準誤差(Standard Error)と呼びます。
母標準偏差 $\sigma$ が既知なら、
です。
母標準偏差が未知の場合は、標本標準偏差 $S$ を使って、
と推定します。
標準偏差と標準誤差の違いは頻出です。
| 指標 | 何のばらつきか |
|---|---|
| 標準偏差 | 個々のデータのばらつき |
| 標準誤差 | 推定量、特に標本平均のばらつき |
標準誤差は、信頼区間や検定統計量の分母に現れます。分母が小さいほど、同じ差でも検定統計量は大きくなります。
標準偏差と標準誤差を混同しない
標準偏差は、個々のデータ $X$ のばらつきです。標準誤差は、標本平均 $\bar{X}$ のばらつきです。標本サイズを増やしても、個々のデータのばらつきそのものが小さくなるわけではありません。
小さくなるのは、平均という推定量のばらつきです。信頼区間や検定で効いてくるのは、この標準誤差です。
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4. 大数の法則と中心極限定理
4.1 大数の法則
大数の法則は、標本サイズを大きくすると、標本平均が母平均に近づくことを示します。
直感的には、サンプル数を増やすほど、偶然の偏りがならされて母平均に近づくということです。
4.2 中心極限定理
中心極限定理は、元の分布が正規分布でなくても、条件がそろえば標本平均の分布が正規分布に近づくことを示します。
中心極限定理があるため、母集団分布が完全には分からなくても、大標本では標準正規分布を使った推定・検定ができます。
大数の法則と中心極限定理の違いは、次のように整理できます。
| 定理 | 何を言っているか |
|---|---|
| 大数の法則 | 標本平均が母平均に近づく |
| 中心極限定理 | 標本平均の分布が正規分布に近づく |
[図1] 中心極限定理のイメージ
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5. 母分散既知なら標準正規分布
母分散 $\sigma^2$ が既知で、母平均 $\mu$ について考えるとき、標本平均を標準化すると、
です。
なぜこの形で標準化するのか
標準化は「平均との差を、その標準偏差で割る」操作です。ここで標準化している対象は、個々のデータ $X$ ではなく、標本平均 $\bar{X}$ です。
標本平均の期待値は $\mu$、標準偏差は $\sigma/\sqrt{n}$ です。したがって、
となります。分母に $\sigma$ ではなく $\sigma/\sqrt{n}$ が来るのは、標本平均のばらつきを基準にしているからです。
母集団が正規分布なら、$Z$ は標準正規分布に従います。
大標本では、中心極限定理により近似的に標準正規分布を使えます。
ただし、現実には母分散が既知であることは多くありません。そのため、統計検定2級では「母分散既知なら $Z$、未知なら $t$」という切り替えを確実に押さえます。
6. 母分散未知ならt分布
母分散 $\sigma^2$ が未知の場合、標本標準偏差 $S$ を使って標準誤差を推定します。
母集団が正規分布に従うとき、この統計量は自由度 $n-1$ のt分布に従います。
t分布は標準正規分布より裾が厚い分布です。標本分散を使って母分散を推定しているぶん、不確実性が増えるためです。
標本サイズが大きくなると、t分布は標準正規分布に近づきます。
なぜ正規分布ではなくt分布になるのか
母分散が既知なら、分母の $\sigma/\sqrt{n}$ は固定された真の値です。しかし母分散が未知の場合、分母に入る $S/\sqrt{n}$ も標本から推定した値です。つまり、分子だけでなく分母にもランダムな揺れが入ります。
この追加の不確実性を反映した分布がt分布です。自由度が小さいほど裾が厚いのは、分散推定が不安定で、極端な値が出やすいからです。
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7. 分散推定ならカイ二乗分布
母集団が正規分布に従うとき、標本分散 $S^2$ と母分散 $\sigma^2$ には次の関係があります。
このため、母分散の区間推定や検定ではカイ二乗分布を使います。
カイ二乗分布は、標準正規分布に従う確率変数の二乗和として現れます。
自由度 $k$ が大きくなるほど、分布は右へ移動し、形もなだらかになります。
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8. 分散比ならF分布
2つの独立なカイ二乗分布を、それぞれ自由度で割った比はF分布に従います。
ここで、
です。
F分布は、分散比を扱う場面で登場します。
- 2つの母分散の比較
- 等分散性の検定
- 分散分析
- 回帰分析の全体の有意性検定
統計検定2級では、F分布は分散分析や等分散の検定とセットで出やすいです。
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9. 試験で問われやすいポイント
| 場面 | 使う分布 | 代表式 |
|---|---|---|
| 母分散既知の母平均 | 標準正規分布 | $Z=(\bar{X}-\mu)/(\sigma/\sqrt{n})$ |
| 母分散未知の母平均 | t分布 | $T=(\bar{X}-\mu)/(S/\sqrt{n})$ |
| 母分散 | カイ二乗分布 | $(n-1)S^2/\sigma^2$ |
| 分散比 | F分布 | $(U_1/\nu_1)/(U_2/\nu_2)$ |
| 大標本近似 | 標準正規分布 | 中心極限定理を利用 |
よくあるひっかけ: 標本サイズが大きいからといって、標準誤差が $\sigma/n$ になるわけではありません。標本平均の標準誤差は $\sigma/\sqrt{n}$ です。
参照分布の選び方
| まず見る対象 | 条件・状況 | 参照する分布 | 代表的な使いどころ |
|---|---|---|---|
| 母平均 | 母分散が既知、または大標本近似 | 標準正規分布 | 母平均の検定・信頼区間 |
| 母平均 | 母分散が未知で、標本分散を使う | t分布 | 母平均の検定・信頼区間 |
| 母分散 | 正規母集団の分散そのものを見る | カイ二乗分布 | 母分散の検定・信頼区間 |
| 分散比 | 2つの分散推定量を比で見る | F分布 | 等分散性の検定・分散分析 |
10. 次の章への接続
標本分布が理解できると、推定と検定の式が見通しやすくなります。次の章では、点推定、区間推定、不偏性、母平均・母比率・母分散の信頼区間を整理します。
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この章のあとに解きたい演習
本文を読んだら、次の問題で「公式を選ぶ」「条件を読む」「計算する」練習に移りましょう。
