推定と信頼区間:点推定・不偏性・母平均・母比率・母分散
Stage 2 — 第9章 | 統計検定2級チートシート 推定学習時間:65〜80分 | 難易度:★★★★☆
この章で学ぶこと
推定とは、標本データから母集団の未知の値を見積もることです。統計検定2級では、母平均、母比率、母分散の推定が頻出します。
推定では、単に1つの値を出すだけでなく、「どのくらい不確実なのか」まで含めて考えます。そのために使うのが、標準誤差と信頼区間です。
この章を終えると、こんなことができるようになります:
- 点推定と区間推定の違いを説明できる
- 不偏性と不偏分散の意味を説明できる
- 母平均の信頼区間で、母分散既知・未知を使い分けられる
- 母比率の信頼区間を計算できる
- 母分散の信頼区間でカイ二乗分布を使う理由を説明できる
1. 推定とは何か
統計学で知りたいのは、多くの場合、母集団の性質です。例えば、全国の有権者の支持率、全顧客の平均購入額、製品重量のばらつきなどです。
しかし、母集団全体を調べることは難しいため、標本から母集団のパラメータを推定します。
| 推定対象 | 記号 | 標本からの推定量 |
|---|---|---|
| 母平均 | $\mu$ | 標本平均 $\bar{X}$ |
| 母比率 | $p$ | 標本比率 $\hat{p}$ |
| 母分散 | $\sigma^2$ | 不偏分散 $S^2$ |
推定には、点推定と区間推定があります。
2. 点推定と区間推定
2.1 点推定
点推定は、母数を1つの値で推定する方法です。
母平均 $\mu$ の点推定量として、標本平均を使います。
母比率 $p$ の点推定量として、標本比率を使います。
ここで、$X$ は標本中で関心のある属性を持つ個体数です。
点推定だけでは足りない理由
点推定は1つの値で答えられるため分かりやすい一方、その値がどれくらい不確実なのかを示しません。標本平均が50でも、標本サイズが10なのか1000なのかで信頼度は大きく変わります。
そのため、統計検定2級では点推定と区間推定をセットで考えます。点推定は中心、区間推定はその周りの不確実性を表します。
2.2 区間推定
区間推定は、母数が入りそうな範囲を推定する方法です。この範囲を信頼区間と呼びます。
一般的な形は、
です。
信頼区間の幅は、次の要因で変わります。
- 標準誤差が大きいほど広くなる
- 信頼係数を高くするほど広くなる
- 標本サイズが大きいほど狭くなる
「臨界値 × 標準誤差」の意味
標準誤差は、推定量がどれくらいばらつくかを表します。臨界値は、そのばらつきを何個分まで許容するかを決める係数です。
95%信頼区間で標準正規分布を使う場合に1.96が出るのは、標準正規分布の中央95%を覆う範囲が、おおよそ $-1.96$ から $1.96$ までだからです。
[図1] 信頼区間の幅を決める要因
関連教材(青の統計学)
3. 不偏性と不偏分散
推定量 $\hat{\theta}$ の期待値が、推定対象の真の値 $\theta$ に等しいとき、その推定量は不偏であるといいます。
母平均に対する標本平均は不偏推定量です。
一方、分散を推定するときは、単純に $n$ で割ると母分散を小さめに見積もりやすくなります。そのため、母分散の推定では $n-1$ で割る不偏分散を使います。
$n-1$ は自由度です。標本平均 $\bar{X}$ をデータから推定した時点で、偏差のうち1つ分の自由度が失われると考えます。
なぜ $n$ ではなく $n-1$ で割るのか
標本分散を計算するとき、平均との差 $(X_i-\bar{X})$ の合計は必ず0になります。つまり、$n$ 個の偏差のうち、最後の1個は残り $n-1$ 個が決まると自動的に決まります。
自由に動ける偏差が $n-1$ 個しかないため、母分散を推定するときは $n-1$ で割ります。これにより、標本分散が母分散を平均的に正しく推定するようになります。
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4. 母平均の信頼区間
4.1 母分散が既知の場合
母分散 $\sigma^2$ が既知で、母集団が正規分布、または標本サイズが十分大きい場合、標準正規分布を使います。
信頼係数 $1-\alpha$ の信頼区間は、
です。
ここで、$z_{\alpha/2}$ は標準正規分布の上側 $\alpha/2$ 点です。95%信頼区間では、おおよそ $1.96$ を使います。
なぜこの式になるのか
母分散が既知なら、
は標準正規分布に従います。中央に $1-\alpha$ の確率が入るように、
と置き、この不等式を $\mu$ について解くと、母平均の信頼区間になります。式を丸暗記するより、標準化した不等式を $\mu$ について解いていると理解しましょう。
4.2 母分散が未知の場合
母分散が未知の場合は、標本標準偏差 $S$ を使い、t分布を参照します。
自由度は $n-1$ です。
母分散が未知だと、標本分散による推定の不確実性が入るため、標準正規分布ではなくt分布を使います。
t分布を使う直感
母分散が未知の場合、標準誤差の分母に入る $S$ も標本から推定しています。そのぶん、標準正規分布より不確実性が大きくなります。
t分布はこの不確実性を反映して、標準正規分布より裾が厚くなります。標本サイズが小さいほど裾の厚さが効くため、小標本では特にt分布を使う意味が大きくなります。
関連教材(青の統計学)
5. 母比率の信頼区間
母比率 $p$ は、母集団におけるある性質を持つ割合です。例えば、支持率、不良品率、クリック率などが該当します。
標本比率は、
です。
標本サイズが十分大きいとき、標本比率は近似的に正規分布に従います。そのため、信頼係数 $1-\alpha$ の信頼区間は、
となります。
この式の平方根部分は、標本比率の標準誤差です。
背景には、二項分布の分散 $np(1-p)$ と正規近似があります。
標本比率の標準誤差の由来
標本中の成功数を $X$ とすると、$X\sim B(n,p)$ と考えられます。二項分布の分散は $np(1-p)$ です。
標本比率は $\hat{p}=X/n$ なので、分散は
となります。実際には $p$ は未知なので、信頼区間では $\hat{p}$ を代入して標準誤差を推定します。
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6. 母分散の信頼区間
母分散 $\sigma^2$ の推定では、カイ二乗分布を使います。母集団が正規分布に従うとき、
です。
この関係から、母分散の信頼係数 $1-\alpha$ の信頼区間は、
と表せます。
カイ二乗分布は左右対称ではないため、母分散の信頼区間は $S^2$ を中心とした左右対称な区間にはなりません。ここは平均の信頼区間との大きな違いです。
分散の信頼区間が左右対称でない理由
母平均の信頼区間では、正規分布やt分布のような左右対称な分布を使うことが多いです。一方、母分散ではカイ二乗分布を使います。カイ二乗分布は0以上の値しか取らず、右に裾が長い分布です。
そのため、母分散の信頼区間は「推定値 ± 誤差幅」という左右対称な形にはなりません。分散を扱うときは、平均の区間推定と同じ感覚で処理しないことが重要です。
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7. 信頼係数と有意水準の関係
信頼係数 $1-\alpha$ と有意水準 $\alpha$ は表裏の関係です。
| 信頼係数 | 有意水準 | 両側で片側に残る確率 |
|---|---|---|
| 90% | 10% | 5% |
| 95% | 5% | 2.5% |
| 99% | 1% | 0.5% |
95%信頼区間なら、両端に $2.5\%$ ずつの確率を残すため、標準正規分布では $z_{0.025}\approx1.96$ を使います。
注意: 95%信頼区間は、「今回計算した区間に母数が95%の確率で入っている」という意味ではありません。同じ手順で何度も区間を作ったとき、そのうち約95%が母数を含む、という意味です。
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8. 試験で問われやすいポイント
| 推定対象 | 推定量 | 信頼区間で使う分布 |
|---|---|---|
| 母平均、母分散既知 | $\bar{X}$ | 標準正規分布 |
| 母平均、母分散未知 | $\bar{X}$ | t分布 |
| 母比率 | $\hat{p}$ | 標準正規分布近似 |
| 母分散 | $S^2$ | カイ二乗分布 |
よくあるひっかけ: 母平均の信頼区間で、母分散が未知なのに標準正規分布を使ってしまうミスが多いです。小標本かつ母分散未知なら、基本はt分布です。
9. 次の章への接続
推定では「母数がどの範囲にありそうか」を考えました。次の章では、「仮説とデータが矛盾しているか」を判断する仮説検定の基礎を扱います。
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この章のあとに解きたい演習
本文を読んだら、次の問題で「公式を選ぶ」「条件を読む」「計算する」練習に移りましょう。
