分散分析と実験計画
Stage 2 — 第15章 | 統計検定2級チートシート 推定学習時間:65〜85分 | 難易度:★★★★★
この章で学ぶこと
この章では、統計検定2級の難所である分散分析(ANOVA)を、実験計画の考え方から整理します。分散分析は、3群以上の平均を比べるための検定ですが、実際には「変動を要因による変動と誤差による変動に分ける」方法です。
- フィッシャーの3原則を説明できる
- 一元配置分散分析の帰無仮説を立てられる
- 全変動、群間変動、群内変動を区別できる
- 自由度、平均平方、F 値を計算できる
- 多重比較と効果量を補足として理解する
1. フィッシャーの3原則
実験から信頼できる結論を得るには、データを取る前の設計が重要です。フィッシャーの3原則は、実験計画の基本です。
| 原則 | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 反復 | 同じ条件で複数回観測する | 偶然誤差を評価する |
| ランダム化 | 処理の割り当てをランダムにする | 系統的な偏りを減らす |
| 局所制御 | 条件が似た単位で比較する | 誤差を小さくする |
たとえば肥料の効果を比較する実験で、日当たりや土壌条件が群ごとに違っていれば、収穫量の差が肥料によるものか判断できません。分散分析の計算以前に、実験設計が結果の解釈を支えています。
なぜ実験計画が先なのか
どれだけ正しい検定をしても、データの取り方が偏っていれば結論は危うくなります。ランダム化は系統的な偏りを減らし、反復は偶然誤差を見積もり、局所制御は余計なばらつきを抑えます。
分散分析は計算手法であると同時に、実験設計とセットで理解する論点です。試験でも、計算表だけでなく、3原則の意味を問われることがあります。
[図1] フィッシャーの3原則
2. 分散分析の目的
3群以上の平均を比較するとき、すべての組み合わせで t 検定を繰り返すと、第一種の過誤が増えます。分散分析は、まず1回の検定で
を検定します。
対立仮説は、
です。
ここで注意したいのは、ANOVA で有意になっても「どの群とどの群が違うか」はまだ分からないことです。必要に応じて多重比較に進みます。
なぜt検定を繰り返さないのか
3群以上で全ての組み合わせにt検定を行うと、検定回数が増えるほど、どこかで偶然に有意になる確率が高くなります。これが多重性の問題です。
分散分析は、まず「群平均がすべて等しい」という1つの帰無仮説を検定します。全体として差があるかを見てから、必要に応じてどの群が違うかを調べます。
関連教材(青の統計学)
3. 一元配置分散分析
一元配置分散分析は、1つの要因について複数の水準を比較する方法です。たとえば、肥料の種類という要因に対して、肥料A・B・Cという水準を比べます。
第 $i$ 群の第 $j$ 観測値を $X_{ij}$、第 $i$ 群の平均を $\bar{X}_i$、全体平均を $\bar{X}$ とします。
全変動は、各データが全体平均からどれだけ離れているかです。
群間変動は、各群平均が全体平均からどれだけ離れているかです。
群内変動、または誤差変動は、各データが自分の群平均からどれだけ離れているかです。
これらには次の分解が成り立ちます。
具体例で見る一元配置分散分析
肥料A・B・Cで収穫量の平均に差があるかを調べる例を考えます。 1つの要因は「肥料の種類」で、水準はA・B・Cの3つです。
| 肥料 | 観測値 | 群平均 |
|---|---|---|
| A | 18, 20, 22 | 20 |
| B | 25, 27, 29 | 27 |
| C | 30, 32, 34 | 32 |
全体平均は、
です。この例では、群平均が20、27、32と離れています。 一方で、各群の中では観測値が群平均の近くに集まっています。
ANOVAは、この「群平均どうしの離れ方」と「群内のばらつき」を比べます。 群間のばらつきが群内のばらつきに比べて十分大きければ、肥料の種類によって平均収穫量が異なる可能性が高いと判断します。
ANOVA表で整理する
同じ情報を、分散分析では次のような表にまとめます。
| 変動要因 | 意味 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 |
|---|---|---|---|---|
| 群間 | 肥料A・B・Cの平均差 | $SSA$ | $k-1$ | $MSA$ |
| 群内 | 同じ肥料内のばらつき | $SSE$ | $N-k$ | $MSE$ |
| 全体 | 全データのばらつき | $SST$ | $N-1$ | — |
式だけを見ると抽象的ですが、試験では「群間=群平均の違い」「群内=同じ群の中の誤差」と言い換えられることが重要です。 ANOVAは、分散そのものを比べたい検定ではなく、ばらつきを分解して平均差を判断する検定です。
4. 自由度と平均平方
平方和は、そのままでは群数や標本サイズの影響を受けます。そこで、平方和を自由度で割った平均平方を使います。
| 変動要因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 |
|---|---|---|---|
| 要因(群間) | $SSA$ | $k-1$ | $MSA=SSA/(k-1)$ |
| 誤差(群内) | $SSE$ | $N-k$ | $MSE=SSE/(N-k)$ |
| 全体 | $SST$ | $N-1$ | — |
自由度の関係は次の通りです。
帰無仮説が正しい、つまり群平均に差がないなら、群間の平均平方 $MSA$ と群内の平均平方 $MSE$ はどちらも誤差分散を推定していると考えられます。したがって、比は1に近くなります。
平均平方にする理由
平方和は、データ数や群数が増えると大きくなりやすい量です。そのまま比較すると、自由度の違いを反映できません。
そこで、平方和を自由度で割って平均平方にします。$MSA$ と $MSE$ を同じ「1自由度あたりの変動」として比較できるようにしている、と考えると分かりやすくなります。
5. F値と判定
分散分析の検定統計量は、群間平均平方を群内平均平方で割ったものです。
帰無仮説のもとで、
です。
$F$ 値が大きいほど、群間のばらつきが群内のばらつきに比べて大きいことを意味します。つまり、要因によって平均が異なる可能性が高くなります。
なぜF分布を使うのか
F分布は、2つの独立な分散推定量の比として現れる分布です。ANOVAでは、群間平均平方 $MSA$ と群内平均平方 $MSE$ の比を取っています。
帰無仮説が正しければ、どちらも同じ誤差分散を推定しているため、比は1に近くなります。比が十分大きい場合、群間差が偶然のばらつきだけでは説明しにくいと判断します。
ANOVA表の読み方
| 変動要因 | SS | df | MS | F |
|---|---|---|---|---|
| 群間 | 120 | 3 | 40 | 4 |
| 群内 | 160 | 16 | 10 | — |
| 全体 | 280 | 19 | — | — |
この例では、
です。臨界値や p 値と比較して、帰無仮説を棄却するか判断します。
関連教材(青の統計学)
6. 多重比較と効果量
ANOVA で有意になった場合、次に知りたいのは「どの群が違うのか」です。この段階で Tukey 法や Bonferroni 法などの多重比較を使います。
ただし、検定を繰り返すと第一種の過誤が増えるため、多重性を補正する必要があります。
関連教材(青の統計学)
エータ平方
効果量として、エータ平方 $\eta^2$ が使われることがあります。
これは、全変動のうち要因で説明できる割合です。p 値が有意かどうかだけでなく、効果がどのくらい大きいかを見るための指標です。
7. 頻出のひっかけ
「分散分析」は分散の検定ではない
名前に分散とありますが、主な目的は複数群の母平均が等しいかを検定することです。分散を分解して平均差を判断するため、分散分析と呼ばれます。
有意でも、どの群が違うかは分からない
ANOVA の対立仮説は「少なくとも1つ異なる」です。具体的な群間差は多重比較で確認します。
自由度を表から復元する
統計検定2級では、ANOVA表の穴埋めがよく出ます。SS、df、MS、F の関係を使って、欠けている値を復元できるようにしましょう。
確認問題
問題1
4群、総標本サイズ $N=24$ の一元配置分散分析を行う。群間自由度、群内自由度、全体自由度を求めてください。
解答を見る
群数 $k=4$ なので、
問題2
$SSA=90$、$SSE=150$、群間自由度 $3$、群内自由度 $15$ のとき、F 値を求めてください。
解答を見る
まとめ
| 概念 | 内容 |
|---|---|
| フィッシャーの3原則 | 反復、ランダム化、局所制御 |
| ANOVAの帰無仮説 | すべての群の母平均が等しい |
| 平方和分解 | $SST=SSA+SSE$ |
| 平均平方 | 平方和を自由度で割る |
| F値 | $F=MSA/MSE$ |
| 多重比較 | ANOVA後に具体的な群間差を調べる |
| エータ平方 | $\eta^2=SSA/SST$ |
次章では、指数、標本抽出法、検定選択表など、試験直前に戻るべき論点をまとめます。
この章のあとに解きたい演習
本文を読んだら、次の問題で「公式を選ぶ」「条件を読む」「計算する」練習に移りましょう。
